再会
「あれ?さっきのお兄さんじゃん。」
新しいハイボールを片手につまみを口の中に放り込んでいたところ、ふとそんな声をかけられた。
声がした方向に視線を向けると、先程自販機横で喫煙していた私を注意をしてきた若い女性だった。
さっきはごめんよ。と声をかける。
「いいんだよ、最近うるさい人増えたから気をつけて。」
笑みを浮かべながら返してきた。人当たりの良い子だ。
しかし、彼女は繁華街の方に歩いていったはずだ。なぜ今ここにいるのだろうか。そう疑問に思っていたところ、顔に出ていたのか答えが返ってくる。
「お客さんと同伴する予定だったんだけどドタキャン食らっちゃって、面倒になってそのまま出勤辞めて帰ろうと思って。そしたらお兄さんがいたんだ。」
そうか、残念だったね、一杯だけ飲んで行くかい?奢るよ。
下心抜きに聞いてみると、満更でもないのか、「ごちでーす」と
「今日は満月なんだねぇ。」
空を見上げながら、誰に聞かせるわけでもなく彼女は呟く。
なんだ、この子も乙じゃぁないか。
到着した彼女のビールにグラスをぶつけ、他愛ない会話をしながらひとときを過ごす。
「お兄さん、連絡先交換しようよ。また飲みに行こう。」
営業でもなんでも、ひとときを一緒に過ごしてくれたんだからそれぐらいは安いものだ。仮に営業をかけられたとしても、一回ぐらいはお店に遊びに行ってもいいかもしれない。その子と連絡先をQRコードで交換する。
彼女は一杯だけだったがもう帰るとのことだったので、お勘定をして店の前で解散することにした。解散前に彼女は小さい声で私に囁く。
「それ、プライベートだから。じゃあね。」
曖昧に返事をしながら、お互い帰路につく。
帰宅してスーツをハンガーにかけ、シャワーで外の空気を洗い流し、布団に入った。
今日という一日はとても良かった。また一人で飲みに行こう。
レースカーテンから見える、空に浮かぶ満月に呟き、瞼を閉じた。
とあるサラリーマンの一日 JN-ORB @jnoob
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