とある男性の高校の頃の思い出、特に仲が良かったらしい『祐介』との友情のお話。
ある意味、『誰も幸せにならない物語』という表題の通り。何がというわけではないはずなのに、なんとなく息が詰まるような苦しさを感じます。
うまく見通せない深い霧の中を進んでいるような感覚。このお話が主人公自身による語りであることと(しかも酔っている)、文中の『別の世界線(パラレルワールド)』という表現。加えて、この作品自体の『現代ファンタジー』という分類もあって、まず何をどこまで信用していいのか、この足元の不確かさが特徴的でした。
文字の向こうから漂うアルコールの香り。なるほどここに幸せは一切ない、そう確信できる物語でした。
キャッチコピーとあらすじ、そして冒頭にもあるように、この話は「パラレルワールドに住んでいた男」の話として語られています。
語られているはずなのですが、出てくるシーンはどれも現実と変わらないように思える。「内地」という言葉が出てくることから、おそらく北海道なのだと思う。そして、ややヤンキー漫画のような階層をステージにした世界観。
主人公はもしかしたら現在は「内地」に就職していて、故郷の事を別世界と言っているのかもしれない。あるいは、現在では就職して真人間みたいな顔をしているけれど、昔はワルだったということを指してパラレルワールドと言っているのかも。そしてもしかしたら、この話が行われている居酒屋でもあるようなその場所は、ファンタジー世界の冒険者の酒場のような場所なのかもしれない。
答えがあるようで絞ることができない、そんなお話でした。