本当にまさしくタイトルの通り、とあるサラリーマンの一日をそのまま活写した物語。
強いていうのであれば、実は「一日」というほどには丸一日ではないのですけれど(夜の飲み歩きの様子を描いたお話なので)。しかしそれでもこのタイトルがとてもしっくりくるくらいには、「とあるサラリーマンの一日」している作品です。そのなんら特別感のない印象の通り、フィクションらしい変わった騒動は何ひとつ起こらない。なんの変哲もない平穏な生活の様子を、でも丁寧にクローズアップして描き出してみせる、まさに「現代ドラマ」というジャンル指定にふさわしいお話でした。
最大の魅力はやはりなんといっても、お酒とご飯の美味しそうなところです(個人的にはたばこも)。いわゆる「飯テロ」、といってはおかしいのですけれど、でもその言葉がとてもしっくりくる、飲食に対する描写の細やかさとその積み上げ方がもう本当にすごい。
作中には一応、中年男性の悲哀や世の中の世知辛さのようなものも見え隠れするのですけれど、でもその辺は実のところ、枝葉にすぎないものとして読みました。少なくとも主軸や主題ではなく、あくまでフレーバー程度のもの。本作は世の中に対する真面目な問いを投げるような話ではなく、ただそういったいろいろのある中で、しかしほっとひと息つける瞬間のようなものを描いた、暖かく優しいお話ではないかと思います。
とはいえ、本当にただ飲み食いしているばかりではなく、一応他者との出会いを描いてもいるのですけれど。その持って行き方というか、最後の結びにそれを持ってきているところが好き。読後になんとなく気持ちが軽くなるような、ちょっとしたひと休みみたいな優しいお話でした。