多感だったあの頃の、爽やかな、でも生々しい手触り

 考えていることに関連した形状の雲が頭上に浮かんでしまう、という、不思議な現象に悩まされる少年のお話。
 面白かったです。分量にして4,000文字と、ごく短い作品のはずなのに、しかしこの濃度は一体なに? ジャンルはラブコメとありますが(読後に見て気づきました)、個人的には「すこしふしぎ」な要素のある現代ドラマくらいの感覚で読みました。でもそっか、ラブコメ……なるほど確かに……(五色さんがかわいいので)。
 文章がとても流麗です。最高。そりゃ〝これ〟で書かれたらなんだって面白くなっちゃうよ、ってくらい。つっかえたり迷ったりするようなところが一切なく、なんて形容だとなんだか当たり前のことみたいに見えるかもですけど、その水準がとんでもないような感じ。ここまで全部頭に入ってくる文章ってそうそうお目にかかれないです。
 以降は内容に触れるというか、若干ネタバレを含むといえば含みますのでご注意を。
 いわゆるビルドゥングスロマン、思春期の少年の苦悩と成長を描いた物語なのですけれど、その爽やかさと生々しさの両面が自然に描かれているところが最高でした。性にまつわる物事の取り扱い方。恋愛と地続きになっている感じと、その受容に苦慮するところ。それがただ幼かったり青かったりするのではなく、むしろ主人公自身は非常に聡く冷静で(もちろん完璧にというわけではないにせよ、でも十分に)、つまり読者としてもそのまま共感できてしまうだけの説得力を備えている、というところがもう本当に好きです。ある種の戯画化された『青春』ではなく、まさにその瞬間を生きているひとりの人間のドラマ。子供というものを侮らない感じ、その太さが素晴らしい。
 最後にヒロインから与えられた救済。まるで呪いを解いてくれるかのような、と最初は思ったものの、でも解呪という表現はなんだかしっくりこない気もする。だって呪いっていうか被害はまだ変わらずそこにあって、でもそれすら平気にしてしまう強さを与えてもらう、そんなパワー溢れる恋の物語でした。好き!