日常があって、愛おしさがあって、失くしたものがたくさんある

異世界帰りの勇者と魔女によるラブコメ系のラノベ、ここにありますよ。

ある日突然異世界に勇者と魔女として召喚された飛鳥君と咲耶さんは、二年間の戦いの後、ぽーんと元の世界に帰ります。するとこっちでも二年経っていたわけですが、そこはそれ魔女のスーパー魔法で何とかしてとりあえず元の高校生に戻れました。で、飛鳥君はアパート暮らしなのですが、咲耶さんが隣のマンションに越してくる。それで、ことあるごとに咲耶さんが窓から飛鳥君の部屋にやってくる(オタク大好きタイトル回収!)んですよ。もうこの時点でラブが迸ってますが、まだまだ序の口。

そう本作はラブに溢れています。癖は強いけどとっても良い奴な飛鳥君と、一見完璧美人でも実の所そうでもない上にヤンデレ気味というハイパー最高な咲耶さんの交流は、最初こそ異世界での立場から対立していたものの、どんどん打ち解けていく、それはもう加速度的に。まだろくすっぽ恋も愛も知らない二人の距離の詰め方は、あの、なんか、良い感じだけどもどかしくて、スゲえねっとりした笑顔を浮かべてしまいますね。たまに挿入される周囲からの「もうお前ら付き合っちゃえよ」的描写とかも堪らなくて、素晴らしいラブコメを読んでいる時特有の幸福感が脳に溢れます。そうしてウキウキと読み進めていくうち、二人が直面していく困難の大きさを思い知らされるわけですが。

詳細は書きませんが、本作では二人の過去、異世界での経験というものは途方も無く巨大な闇となって彼と彼女を包み込んでいます。二人が本人の意志に関わらず勇者と魔女、人類側と魔王側に召喚された後何があったのか、帰ってきた今何を失い、どうなってしまったのか。考えると居た堪れない気持ちになります。今日常を瑞々しく心を通わせ合いながら生きる二人は、かつて体と精神に負った甚大な傷に苦しみ続けている。それでも二人は背負った痛みと同じぐらいの愛おしさを以て、お互いを支え合いながら生きている。誰かを愛するということは、我々が思っている以上に誰かの痛みに触れることなのかもしれない。そして、その痛みと正面からぶつかり合う二人は、正しく最強の勇者と魔女で、ラブコメディの主人公で、我々が小狡く成長するうち失くしたものを見せてくれている……そんな風に思わず後方近所の何者にもなれなかった独身男性(恋愛経験無)面して浸ってしまう程、眩しくも目が離せない、とても魅力的なお話なんです。

とまあ長々語ってしまいましたが、コミカルで軽快な文体で語られるこの物語には、それでも凄みのある骨太なドラマがあり、それでもニヤケてしまうほど幸せになれる力があります。
あなたもぜひご一読を!

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