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 雨上がりの校庭に、たくさんの歓声が響き渡る。


 気の早い連中が、ランドセルも下ろさずに、足でキックベースボールコートの線を、なぞっている。



「ウ・ラ・オ・モ・テ!」


 先生が来る前に。

 大急ぎでチーム作りが始まる。


 ボールは、いつの間か倉庫から持ち出されていた。



「いーれーて」


 ランドセルを背負ったまま、一応、圭太はつぶやいてみる。

 返事はわかっていた。


 ……「無理、拒否、却下」


 いやな言葉だな。何度聞いても慣れることができない。




「いーよ」

ナツキが答えた。


 圭太は、びっくりした。

 初めてだったのだ。


「守備が一人足りないんだ。外野ね、お前」

コート中央に立ったまま、こっちを見もせずに、ナツキがいう。


「いいの? 本当に?」

「早く!」




 もちろん、圭太は、へたくそだった。


 外野に来るボールは力も強いし、空高くから落ちてくる。

 圭太に取れるわけがない。バウンドしてころころ転がるボールを、必死で追った。


 攻めでも、すぐにアウトになった。何度かファールを繰り返して、やっとのことで蹴ったボールは、ひょろひょろとファーストホームの方へ転がって行った。



 「こらーっ、早く帰れーっ」


 それでも、職員室の窓から5年生の先生が叫ぶまで、圭太は友達と遊ぶことができた。





 「下手くそ」

校門を出たところでいきなりそう言われて、圭太はびっくりした。


 おねえちゃんだった。



「見てたの?」


 さすがに決まりが悪かった。

 へへへ、とおねえちゃんが笑った。


「でも、よかったじゃん。友達と遊べて」

「そだね」


 逆らわずに、圭太は答えた。



 「ねえ、おねえちゃん。本当に人類は、あと100年で亡びるのかな?」


 見渡す限りの薄茶色の砂地。

 乾いた風。舞い散る砂ぼこり。


 白蛇から見せられた映像を、圭太は、忘れることができない。



 おねえちゃんは、肩をすくめた。


「本当なら、あたしは死んでいたんだよ。でも、あんたが変えた。あたしの未来を」



 ……「一つ変われば、次も変わる」

 竜王の言葉が、耳元で聞こえた気がした。



「つまり、そういうこと」



 おねえちゃんは、圭太の方へ、手を突き出した。


「何、これ? ケータイ?」

 古いガラケーだった。


「うん。これ、まだ使えるから。公共の電波が飛んでるとこでなら。この辺だと、***で使える」


 おねえちゃんは、コンビニの名を挙げた。圭太のクラスメートの、お父さんが店長をやってる店だ。


「何かあったら、電話して」


「何かって……」

受け取るのを、圭太はためらった。


 けれど、強引におねえちゃんが、おしつけてくる。


 「本当なら、あたしとあんたは出会わなかった。だから、今度は、あたしがあんたの未来を変える」



 ……「一つ変われば、次も変わる」



 「大人は力が強いから。ひどく殴られたら、困るから」


 母さんのこと言ってる。

 圭太の体が、かあーっとなった。


「いらないよ。自分のことは自分で守る」


「ダンにはスーがいたよ。外に助けを求めることも必要だと思う。私に何ができるかわからないけど、大騒ぎだけは得意だから!」



 そうだった、と、圭太は思い出した。おねえちゃんが騒ぎ出すと、すごくうるさい。


 パールピンクのケータイには、恐竜のストラップが揺れていた。


「それ、Tレックスだから」


 おねえちゃんがダメ押しをする。

 とうとう手を伸ばし、圭太は、ケータイを受け取った。


 おねえちゃんが、にやりと笑った。


「そいつも、スーっていうんだ」



「恐竜の進化は、まだ、終わっていない」

思わず、圭太はつぶやく。


 これも、竜王の言葉だ。



「うん。圭太のおかげで、せっかく命拾いしたのに、あと100年で死ぬのは、私、いや。だから、鳥と共存しなくちゃね!」


 鳥たちは、生き残りの天才だ。


「鳥が恐竜に戻ったら、もっといいね!」

圭太も言った。



 もしかしたら。


 再び恐竜の登場もあるかもしれない。

 その時、人類は、恐竜と共存の道を歩むのだ。


 心が晴れ晴れするのを、圭太は感じた。







fin




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お読み下さって、ありがとうございました!!













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ハッピー♡ダイノサウルス せりもも @serimomo

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