66
雨上がりの校庭に、たくさんの歓声が響き渡る。
気の早い連中が、ランドセルも下ろさずに、足でキックベースボールコートの線を、なぞっている。
「ウ・ラ・オ・モ・テ!」
先生が来る前に。
大急ぎでチーム作りが始まる。
ボールは、いつの間か倉庫から持ち出されていた。
「いーれーて」
ランドセルを背負ったまま、一応、圭太はつぶやいてみる。
返事はわかっていた。
……「無理、拒否、却下」
いやな言葉だな。何度聞いても慣れることができない。
「いーよ」
ナツキが答えた。
圭太は、びっくりした。
初めてだったのだ。
「守備が一人足りないんだ。外野ね、お前」
コート中央に立ったまま、こっちを見もせずに、ナツキがいう。
「いいの? 本当に?」
「早く!」
もちろん、圭太は、へたくそだった。
外野に来るボールは力も強いし、空高くから落ちてくる。
圭太に取れるわけがない。バウンドしてころころ転がるボールを、必死で追った。
攻めでも、すぐにアウトになった。何度かファールを繰り返して、やっとのことで蹴ったボールは、ひょろひょろとファーストホームの方へ転がって行った。
「こらーっ、早く帰れーっ」
それでも、職員室の窓から5年生の先生が叫ぶまで、圭太は友達と遊ぶことができた。
*
「下手くそ」
校門を出たところでいきなりそう言われて、圭太はびっくりした。
おねえちゃんだった。
「見てたの?」
さすがに決まりが悪かった。
へへへ、とおねえちゃんが笑った。
「でも、よかったじゃん。友達と遊べて」
「そだね」
逆らわずに、圭太は答えた。
「ねえ、おねえちゃん。本当に人類は、あと100年で亡びるのかな?」
見渡す限りの薄茶色の砂地。
乾いた風。舞い散る砂ぼこり。
白蛇から見せられた映像を、圭太は、忘れることができない。
おねえちゃんは、肩をすくめた。
「本当なら、あたしは死んでいたんだよ。でも、あんたが変えた。あたしの未来を」
……「一つ変われば、次も変わる」
竜王の言葉が、耳元で聞こえた気がした。
「つまり、そういうこと」
おねえちゃんは、圭太の方へ、手を突き出した。
「何、これ? ケータイ?」
古いガラケーだった。
「うん。これ、まだ使えるから。公共の電波が飛んでるとこでなら。この辺だと、***で使える」
おねえちゃんは、コンビニの名を挙げた。圭太のクラスメートの、お父さんが店長をやってる店だ。
「何かあったら、電話して」
「何かって……」
受け取るのを、圭太はためらった。
けれど、強引におねえちゃんが、おしつけてくる。
「本当なら、あたしとあんたは出会わなかった。だから、今度は、あたしがあんたの未来を変える」
……「一つ変われば、次も変わる」
「大人は力が強いから。ひどく殴られたら、困るから」
母さんのこと言ってる。
圭太の体が、かあーっとなった。
「いらないよ。自分のことは自分で守る」
「ダンにはスーがいたよ。外に助けを求めることも必要だと思う。私に何ができるかわからないけど、大騒ぎだけは得意だから!」
そうだった、と、圭太は思い出した。おねえちゃんが騒ぎ出すと、すごくうるさい。
パールピンクのケータイには、恐竜のストラップが揺れていた。
「それ、Tレックスだから」
おねえちゃんがダメ押しをする。
とうとう手を伸ばし、圭太は、ケータイを受け取った。
おねえちゃんが、にやりと笑った。
「そいつも、スーっていうんだ」
「恐竜の進化は、まだ、終わっていない」
思わず、圭太はつぶやく。
これも、竜王の言葉だ。
「うん。圭太のおかげで、せっかく命拾いしたのに、あと100年で死ぬのは、私、いや。だから、鳥と共存しなくちゃね!」
鳥たちは、生き残りの天才だ。
「鳥が恐竜に戻ったら、もっといいね!」
圭太も言った。
もしかしたら。
再び恐竜の登場もあるかもしれない。
その時、人類は、恐竜と共存の道を歩むのだ。
心が晴れ晴れするのを、圭太は感じた。
fin
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お読み下さって、ありがとうございました!!
ハッピー♡ダイノサウルス せりもも @serimomo
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