過去の人間に勉強教えれば、めっちゃ現代発展するんじゃね?

ちびまるフォイ

タイムスリップ勉強会

人類成長分科会は頭を悩ませていた。


「まいったなぁ。来年から予算が半分以下になっちゃうよ」


「うそだろ!? 今でさえギリギリなのにこれ以上減らされたら

 人類の文明発展させる貢献ができなくなるぞ!?」


「最近は文明発展も頭打ちで成果出せてないと思われたんだろうな……」


人類成長分科会はかつてインターネットなどの概念を作り出し、

SNSの基礎を生み出したり、歴史を遡れば産業革命の発端をも担ったグループ。

より人類の文明を発展させるのが仕事だった。


「……ようは、現代の文明を発展させればいいんだろう?」


「なにかできることがあるのか?」


「タイムマシンを使おう」


分科会の研究者は最近できたばかりのタイムマシンを持ってきた。

多額の資金を注ぎ込んだわりには使うのが怖くなって、インテリアになっていたものだった。


「なるほど、タイムマシンを使って未来の知恵を得るんだな!」


「いいやそうじゃない。未来の知識を取ってきたところで理解できないし」


「それじゃ何に使うんだ?」

「過去の人間を成長させるのさ」


研究員はタイムマシンで太古の世界へと時代をさかのぼった。

そして、子供をひとり拉致して現代に舞い戻る。


「ウパ! ウパパ!?」


「太古の人間を連れてきた。こいつに現代の知識を与えて過去に送り返す。

 そうすれば、過去から現代までの間にきっと世界は大きく発展するだろう」


「なるほど、そういうことか!」


研究員たちはまだ言葉という概念すらない太古の人間にあらゆる知識を与えた。

これまで狩猟くらいしか使っていなかった脳には大量の情報が刻まれる。


「研究員のみなさん、ご指導ご鞭撻のほどありがとうございますウパ。

 ここで学んだ現代の知識は太古に戻っても活かしたいと思いますウパ」


「ああ、何世代にも語り継いでくれよ」


見違えるように成長した太古の人間はエリート商社マンのような足取りで元の時代へと戻っていった。


「さぁ、これで太古の文化レベルが一気にあがるはずだ。

 現代でどんな影響が出ているかな!」


タイムマシンから戻った研究員たちは現代の文明レベルを確認した。

けれど、なんら変わっていなかった。


「……あれ? おかしいな。新しい技術もなにもないぞ」


町は高層ビルが立ち並び、手元の端末を見ながら人が行き交っている。

研究員たちはふたたび丸テーブルに集まった。


「どういうことだろう。せっかく知識を過去に伝承したのに、

 現代にはこれっぽっちも影響が出てないじゃないか」


「もしかして、過去にお繰り返したあいつは死んじゃったんじゃないか?」


「えっ……」


「今とちがって太古の世界は危険がいっぱいだろ。マンモスとか。

 仮に知識を与えたところで、そいつが死んだら即終了じゃないか」


「それはまずいな……」


研究員はふたたびタイムマシンを引っ張り出すと、今度は全員で太古に向かった。

太古の人間を拉致するのではなく、机と黒板を広げて教室を作った。


「1人だけに知識を教えるんじゃなく、今度はもっとたくさんの人に教えよう!」


研究員たちは教壇に立って、食べ物で釣った太古の人間たちに最新の知識を与え続けた。

おそらく人類史初の学校が作られ、太古の文化レベルは一気に上がった。


「これで完璧だ! これだけの人数に教えておけば、

 現代に必ず良い影響を与えてくれるはずだ!」


たくさんの生徒に知識を与えきった研究員たちは安心して現代に戻っていった。

待っていた現代は見慣れたものだった。


「か、かわってない……」


車が空を飛ぶわけでも、反重力シューズで人間が浮遊することもなかった。

研究員たちはがっくりとうなだれてしまった。


「なんだよ……あれだけ必死に知識を与えたのに、現代には何も残ってないなんて……」


「もう諦めましょう。まだ未開である深海調査とかして、成果を報告しましょうや」


「……そうだな」


分科会の研究者たちは過去の文化レベルを上げることでの貢献を諦め、

"なんかあるだろ"の期待感を旨に深海調査する方向で研究を切り替えた。


最新の深海調査機で海ふかくに潜る。


「おい、なにか反応があるぞ!!」


「やった! これで成果として報告できるな!

 予算カットもまぬがれるぞ!」


さらに深くもぐると、なにやら海に人工の建築物が沈んでいた。

ライトで照らすと現代とほぼ同じビルや建物が海の中に廃墟となって沈んでいる。

激しい戦争の傷跡が見て取れる。


「すごい……もうずっと昔に作られたものなのに、現代文明と遜色ないぞ」

「こっちには銅像もあるぞ」


沈んだ遺物の中に紛れている銅像は、かつて研究員が知識を与えた太古の人間だった。


「"文明の父ここに眠る"だと」


「これは素晴らしい成果につながるんじゃないか。

 我々が知識を与えたことで、太古の人類はオーバーテクノロジーを得たんだ。

 これを研究すれば、きっと現代もより発展できるはず!」


「よし! はやく地上に戻ってこのことを報告しよう!」


深海調査で偶然見つけた廃墟を後にして陸に上がった。

地上にはつい先ほど沈んでいた町と変わらない町並みが目に入った。


研究員たちはいそいそと調査レポートをまとめて、予算審議会に成果報告をした。




『我々は過去の文化レベルを急上昇させました。

 それにより滅んだかつてのオーバーテクノロジーを深海で発見しました。


 これからも深海調査をますます進めていきます。

 

 これで間違いなく現代の文化レベルは急上昇できることでしょう!!



研究員たちの尽力により現代の文化は劇的な発展を見せた。

その後、海の底に沈んだ。

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