鉄ノ鳥 空高く舞けり 

九鬼嘉隆

神風

「誰か志願するものはおるか!!」

 わしは志願なんかしたくなかったが結局誰かが行かねばならん。しかし、どうせ死ぬならばと手を挙げてしまった。

「はっ。私特攻隊に志願いたします。」

「そうか!!お前ならやってくれると思っていたぞ」

 そのあとにちらほらと俺の同僚が特攻隊に志願していた。

 お上から指定された人数が集まったからか満足したような顔で上官は自分の部屋に戻っていった。

「おい、お前なんで特攻隊に志願なんてしたんだ!!死にたいのか」

 志願しなかった同僚から怒号が飛ぶ。

「失礼ながら私もそう思います。三島伍長の腕前ならば特攻などせずにでも鬼畜米兵を殺せると思います。それに、、、」

「なんだ。言いたいことがあるならはっきり申せ」

「はっ、日本は広島、長崎にとてつもない空襲を受け、沖縄も占領されもう勝ち目はありません。ここで死ぬべきではありません。」

「なんだ貴様!!日本が負けると申すのか!!冗談でも笑えないぞ」

「しかし伍長もわかっているはずです。日本が勝てないことぐらい。装備も兵力も国土も何もかも劣っているのです。それならば日本が降伏するまで生き残ることが賢い考えです。ここで死ぬのは無駄死にです。」

「黙れ!!わしらの特攻が無駄だといいたいのか」

「いえ、そういうわけでは、、、」

「もういい。このことは上官には黙っておいてやる。お前は部屋に戻って頭でも冷やせ。」

「はっ」

そういって若い兵士は部屋を出ていった。

「で、お前もわかってんだろ」

始めに怒号を飛ばしてきた同僚がわしにそう質問してきた。

「ああ、わかってるさ。日本が負けることぐらい。お前らも薄々気づいているはずさ。だがな、わしはたくさんの仲間が太平洋に散っていくのを見た。そいつらと靖国で会おうって約束してんだ。俺はそれを守らなけらばならない。それに俺らがどうするのかを見ている気がするんだ。このままのうのうと生きていくのか、それとも最後にどでかい花火を打ち上げるかを」

そう言い終わると同じくいろんな戦地を生き抜いてきた同僚たちがうなずいていた。

「まあ、そういうことだ。明日はよろしくな。わしらが特攻するまでの間敵から守ってくれよ」

「「「はっ」」」

「それじゃわしはもう寝るわ」


翌日、絶好の特攻日和になった。

「お前たちの特攻が成功し儂の出世の糧となってくれ」

上官の本音を聞いた後わしらは特攻機に乗り込んだ。護衛は隼が10機つくらしい。少ないような気もするが素人どうぜんのパイロットが20人いようが30人いようが大して変わらん。歴戦の猛者たちはすでにこの世にいない。あの岩本大尉も戦死してしまったしな。

出発しようとしたときに居残り組の兵士が話しかけてきた。

「伍長、昨日は申し訳ありませんでした。伍長の考えも知らずに勝手なことを申してしまい」

「昨日のもんか。気にするな。人にはその人それぞれの考えがあるからな。それにわしもその考えに賛同はできんが理解はできる。お前みたいなもんがおってもいいと思っておる。生き残ってしっかり儂らの雄姿を後世に伝えてくれよ」

「伍長、、、」

「それじゃあの。それでは出撃!!」

その号令と共に総数15機の機体が空中に舞い上がった。


「この緊張感。初めて出撃したときを思い出すな。」

敵までまだ時間があるため少し昔のことを思い出していた。

「初めのころはなんもできずに先輩によく励まされたもんだな。そのあと慣れてきたらいろんな戦地を転々としながら戦ってきた。岩本大尉に指導してもらったこともあったな」

「あれ、涙が、、、」

仲間死んだときにも一滴の涙をみせなかったわしが今更涙なんてな。

「わしもすぐそちらに向かう。成功するように願っておいておくれよ。」

そう独り言をつぶやき涙を拭きとった後、強く操縦かんを握りなおした。


「右上から敵機襲来。戦闘用意!!」

その声が聞こえたとき汗が体中から噴き出した。

「ようやく現れたか。特攻隊は下を見ろ。艦隊を探せ!!」

「「「了解」」」

そう探している間にも戦闘機は落とさていく。儂自ら戦えないの残念だ。こんな重い荷物をしょってたら戦えるはずないがな。

「三島」

「なんだ村上。発見したか。してないなら無駄口叩くなよ。」

「いや、俺のエンジンが火を噴いている。もう無理そうだ」

「なに!!もう少し粘れないのか。」

「ああ、この損傷で無線が仕えているのが奇跡みたいなもんだ。もう失速し始めている。お前と共に戦えて楽しかったぞ。それじゃ先にやす、、、まっ、、、ぞ・・・」

「村上、村上!!」

悲しみに浸る間もない。護衛機の間を抜けて敵機も押し寄せてくる。ようやく待っていた報告が来た。

「三島!!右下に艦隊だ。」

「なに!!とうとう見つかったか。了解した。護衛機のもんもありがとう。いますぐ帰還してくれ」

そういい無線を切り集中する。さてどうやって突っ込むか。単純に突っ込んでも失敗するのは目に見えている。それならば撃墜されるまに海面に激突するかもしれないが海面ぎりぎりを飛んで突っ込むしかないな。

そう考えすぐに舵を切る。

「ここがわしの最後の見せ所じゃ。みんな見ておいておくれよ」


「hey,ジャップの特攻機だ。撃ち落とせ」

「無理です。海面に反射して正確に狙えません。」

「今までの特攻機は全て撃ち落としてきたんぞ!!とにかくうちまくれ!!」

「海面すれすれをとんでくるなんてクレイジーだ。こんなパイロットがまだ残っているなんて、、、」

「もうだめだ!!衝撃に備えろ!!」


「火の手が上がっています。けが人も多数いるもよう」

「今すぐ消化と救助をしろ。急げ!!」


見ててくれたかみんな。わしは最後にどでかい花火を打ち上げたぞ。さ、村上らを探して居そちらに向かうからな。温かく迎えいれてくれよ。一緒に日本のこれからを見よう。


その二日後、日本は連合国に無条件降伏をした。この特攻を無駄死にという人もいるが果たして無駄だったのか。信念を通し戦った兵士のことを我々は忘れてはならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鉄ノ鳥 空高く舞けり  九鬼嘉隆 @kukiyosjitaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ