第104話 新たな魔物
シオンを見失ってしまってから、およそ2時間ほど。
僕たちはもう1度シオンに会うべく捜索を続けたけれど、見つけることができずに一度ウェルカ皇城内にある客室へと戻ってきていた。
「んー……。シオン、どこ行っちゃったんだろうねー……」
背中を伸ばしながら、独り言のように小さく呟くラナ。
「まるで神隠しにでもあったかのように、奴の痕跡が突然消えていた。おそらく、背後に転移系の魔法を使える者が居るのだろう。奴はまず間違いなく使えないだろうからな」
忌々しいと言わんばかりに顔を顰め、ふーとため息をつくシオン。
今回はザオルクスのときとは違い、魔力の痕跡を察知することができなかったため追跡ができなかったんだ。
そのこともあって、おそらくと言う言い方をしている。
でも、十中八九転移系――それもテレポートである可能性が非常に高いと踏んでいる。
セツカ曰く、シオンの魔力を辿れないなんてそれ以外考えられないんだって。
前回のことを教訓にしたのか、そもそも使い手が違うのか。
どっちなのかはわからないけど、入念に痕跡が辿れないよう細工してあったんだよね。
完全に後手に回ってしまっていることもあって、二人の顔にはうっすらと疲労の色が滲んでいた。
「考えたくはないけど、ズクミーゴさんが仲間にいる。もしくは、ほかにもテレポートを使えるだけの天道に匹敵する誰かがいるのか……。どちらにせよシオンに協力者がいるのは間違いないとして、どうしてティアとネイアを攫ったんだろう?」
「……奴が言っていた、"強く記憶に根付く物語"に関係があるんでしょうか?」
「意味としては理解できるけど、ずいぶん抽象的な表現だよね。シオンの性格からして歴史に名を刻みたいなんて思わなそうだし……。物語って言うと本や画が思い浮かぶけど、それなら筆を取るだろうし……。うーん、難しいね……」
「言い出した我が言えることではないが、あまり考えすぎると深みにハマるかもしれんぞ。奴は一見まともそうに見えるが、その実かなり歪んでいるからな。理解者が現れないと、ひどく荒れていた時期もあったほどだ。龍は孤高な生物ではあるが、孤独を好き好んでいる訳ではないと言うくせに、必要以上に周りに他者が近寄るのを嫌うのだ。不可解だろう?」
「言葉と行動が矛盾してるね……。シオンはいつも私たちの輪の中にいたし、全然そんな風に感じたことなかったけど、無理してたのかなぁ……?」
奴の考えは理解できんと眉間に皺を寄せて頭を振るうセツカと、シオンの内心を慮ってしゅんとするラナ。
対局の反応に見える二人だけど、その実シオンのことで頭がいっぱいなんだと思う。
シオン、君の考えていることを全部話してほしいよ―――。
☆
あれから三日が経った。
シオンのことに関しては特に進展がないままだけど、それ以外には様々な変化が生じている。
最たるものでいえば、各国周辺に突如として新たな魔物が大量に出現したこと。
新種の魔物は暫定的に『
というのも、この『幽魔霊』はザザーランドの首都であるザオルクスでズクミーゴさんが召喚した魔物と非常に良く似た特徴をもっていた。
物理攻撃が一切効かず、魔法攻撃でしかダメージを与えることができない難敵。
ウェルカは勿論のこと、基本的にどこの国も軍部は魔法師団と騎士団がほぼ同数なこともあって、幽魔霊を相手にした場合は単純計算だと戦力が半減することになる。
実際には騎士団が魔法師団の盾役に回ったり、騎士団の中にも魔剣士と呼ばれる幽魔霊に有効打がある人たちもいるんだけど。
平時であれば騎士団が前線を支えつつ後方から魔法師団が大魔法で止めを刺したり、魔法師団が小・中規模の魔法でダメージを与えた後騎士団と入れ替わることで魔力の温存・回復を図るんだ。
魔法は魔力がないと発動できないからね。
この魔力の部分がネックになっていて、現実的には戦力が半減どころか三分の一程度になってしまっているんだって。
幽魔霊が出現してからたちまち魔力回復薬の価格が高騰したばかりか、原料である魔力草の収集が困難になったことも影響して超貴重品になってしまい、どの国も国庫として備蓄していた魔力回復薬が日に日に目減りしていく様子に戦々恐々としているんだとか。
ウェルカも例外じゃなくて、たった二日で国として備蓄していた魔力回復薬のおよそ30分の1程度が使用されたそうだ。
それでも尚幽魔霊の脅威を取り除くことができず、防戦一方であることをカイさんがこっそり教えてくれた。
僕たちも前線に加わることを打診したんだけど、幽魔霊の発生原因がわからない以上温存しておきたいと断られて悶々とした気持ちを抱いている。
グラーヴァさん曰く、ズクミーゴさんが関わっている可能性がある以上これだけで済むとは思えないんだって。
敵の狙いが各国の首都やSランク冒険者といった重要戦力だった場合、無暗に投入すると思うツボだからしっかりとした見極めを行う必要があると言われればそれ以上食い下がれないよね。
「あんなやつら、我が全て氷漬けにしてきてやりましょうか?」
「うーん……。シオンのこともあるし、セツカが狙いの可能性もあると思うんだ。後手に回らされてるとは言え、どうにかしたいところなんだけどね」
「リルのところは大丈夫なのかなぁ……? ゲートから出て来たであろう魔物たちはあらかた片付いたから、ようやく本格的な復興ができるって言ってたところだったのに……」
リルというのは、リーゼルンにいるリルノード公のことだ。
二人はずいぶんと仲良くなったみたいで、部外者がいない場所ではリルと呼ぶようになったみたい。
「ちょうど魔物の討伐依頼を受けてた冒険者がいっぱいいたお陰で、むしろ一番守りが固いって言ってたよ。ガレリアさんとアスリさんの二人がいるから、後方支援もしっかりしてるみたいだし」
「そっかぁ、なら良かったよ。でも、早くなんとかしないとだよね……」
「僕たちはいつまでここにいたらいいんだろう……」
重苦しい雰囲気が室内を満たしていく。
ティアとネイアの居場所もわからない以上、いち早く事態の収束を図りたいのが本心だ。
万が一二人が幽魔霊に襲われたらと思うと気が気じゃないし、どうしても焦ってしまう。
僕にもっと力があれば……。
どうか無事でいてほしいと願いながら、己の無力感に苛まれ続けるのだった―――。
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お久しぶりです。
中々更新ができていないにもかかわらず、新しい読者様にブックマークしていただけて嬉しいやら申し訳ないやら……。
相も変わらず子育てと仕事に奮闘していますが、次話はもう少し短いスパンで投稿できるよう頑張ります。
最終話までのプロットはもうできているので、あとは形にするだけなんですが難しいもんですね。
ほんとのんびーりと気が向いたときに見に来てもらえると幸いです。
今後ともよろしくお願いします!
ps.子供って可愛すぎてもう……!もうっ!!!
食べられる魔法?!~神に愛された寵児だと勝手に持ち上げたくせに、初級魔法しか使えない無能だと追い出された挙句指名手配されました。今さら勘違いだった、戻って来てくれと言われてもさすがに無理です~ 黒雫 @kurona_
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