第4話 そして生徒会は桃色に…

「君は、そんな栗色の髪で、染めているのかね?そんな色気づいた、か、顔で生徒会とは嘆かわしい!」


「君ではありません、副会長の百川です!」


「そ、そちらの君」


「庶務の桜木です!」


「…庶務?生徒会は三人だけかね?普通は会計や書記がいるのではないのかね、たった三人で運営しようとするから、こんな「社交ダンス」を簡単に開催できると思ってしまうんだろう」


 さすがに、我慢の限界だ。


「お言葉ですが、こちらの副会長の百川は、生まれつき色素が薄く、お言葉の通り脱色だの染めているだのビッチ予備軍だのそれこそ口に出すのも憚れるような卑猥な妄想を実際に投げかけられたことも一度や二度じゃなく、今現在もまさに聖職者の頂点の様なあなたのような方にさえそんな偏見の目で見られ、それでもまっすぐにまっとうに生きてきて、小学校の児童会、中学校の生徒会、そして高校の生徒会と皆の人望を浴び続けている存在なんです」


「春ちゃん…」涼香の珍しい複雑そうな声に構わず続ける。


「こちらの庶務の桜木は、そりゃあ御覧の通り小柄で発育も遅く、頼りなく感じるかも知れませんが、なぜウチが会計も書記も存在しないのかと言う理由がまさに彼女であり、必要ないんですよそんなもん。彼女は言ってしまえばパーフェクトで、それこそ会長だっていらなくたって生徒会が回るくらいなんです。それは中学の生徒会でも立証済みで、オレたちはもう何年もそうやって続けてきたんです」


「先輩……」李もどう反応していいか分からない声。


「あ、いや、きみ…」教育委員会から来た人は何か言いたそうにしているが気にしない。


「そしてオレ、いや私ですが、これが見たまんまただの一般人で何も特色のないそりゃ普遍的男子高校生のサンプルにピッタリなつまらない男ですが、それでも、こんな僕を選んでくれた全校生徒のみんなに報いるだけの生き方はしているつもりです。たしかに「社交ダンス」を冒涜しているっていう意見には素直にごめんなさいとしか言えませんが、そもそもそんな敷居の高い、とっつきづらい、選ばれた人にしかできない存在なんでしょうか?」


「あ、いや、そんなことはないよ…」


「ならばどうか、こんなド田舎の場末の矮小でミジンコみたいな学校の一行事と目を瞑っていただくことはできませんでしょうか、どうか寛容、寛大な大岡裁きをいただきたく!」


 あ、生徒会立候補時のスピーチみたいになってるな。いかんいかん、熱くなるなオレ!戦いはこれからなのだから!


「あ、いや、別に裁きだなんて、そこまでは言ってないよ、うん、あ~いかん、私は校長先生に挨拶しなくちゃいかんのでこれで失礼する」


 教育委員会の人は、加藤先生を伴って校長室とは反対の方に進む。

 加藤先生はずっとすまし顔だったが、オレの話の途中口を押さえて痙攣してた。

 食あたりか何かだろうか。


「…春くん、ビッチって…」


「…先輩、発育って…」


「お、二人ともそろそろ開会時間だ!今日は忙しくなるぞ!」


 暴言に対する文句は後にしてもらおう。何せ今日は待ちに待った学園祭、ちょっとやそっとのもめ事なんざ全部吹き飛ばしてやんよ!それが生徒会長の生き様だ!



 などと気合の入った朝から始まり、社交ダンスの始まる午後五時。すでにオレの体力は限界にきている。

 それでも盛大な開会宣言と共に始まった社交ダンスは、会場の全ての人がそれぞれのペアと、最初はぎこちなくも、次第に自己流のステップを踏み、三曲目以降は異性も同性も関係なく、自由なダンスフロアと化していた。


 オレたち三人は、音響や照明などの準備を済ませた後は、主にカメラマンだ。

 それも一段落して、三人揃って、楽しそうに踊り続ける皆を見ていた。


「楽しそうで良かったね」とオレの右に涼香。


「意外と盛り上がりましたね」と左から李。


「あぁ、とりあえず皆の中に思い出を残すことができたかな」楽しかろうが、いまいちと思おうが、体感させてしまえば、それはいつか、なんとなくいい思い出になるもんだ。


「前島さんも女の子と手をつなげて良かったね」


「…なんでそれ知ってんだ?」


「前の日、激励に来てくれた時聞いたよ。この三年間、生徒会の仕事ばっかりで、ろくに女の子と手もつなげない高校生活だった、って春くんに言ったら」涼香の言葉を。


「合法的に女の子と手をつなぐ方法がありまっせ、って「社交ダンス」を提案したんですよね?オレが会長になって前島さんを男にする!って」李が続ける。


「……」


「わたしたちが参加しないのも、人数合わせ。女子が一人多くなっちゃうからなんでしょ?」そう言いながら涼香が左手でオレの右手をつなぐ。


「先輩、ぼっちが嫌いですもんねぇ?」李も右手でオレの左手をつないでくる。


 なんだ、この状態は?


「お~い、桃色生徒会」加藤先生がやって来て失礼な蔑称をのたまうが、クソッ反論できない!


「ていうか先生って確か電話番で職員室に居残りでしたよね」


「それな、あの教育委員会の先生様がさ、私はそんな行事には興味がなく電話番くらいできるので、若い人の手伝いでもしてきたらいかがですかって、追い出されちゃったんだよ。あのくらいの人になると素直に謝れないんだ、察してやってくれ」


 正直、別に怒ってはいない。彼女たちへの暴言は許せんが、それもオレが引き受けたからな!これも生徒会長の役目。


「で、お前らは踊らないのか?」加藤先生の問いに。


「うん」「ええ」「はい」と三者三様の答えを笑顔と共に返す。


 もう一つ正直な話、この二人を不特定多数の誰かと触れ合わせたくない。

 これも生徒会長の特権なのだ。




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桃色生徒会の混乱行動記 K-enterprise @wanmoo

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