第10話
吉見春と茶髪の女子。そしてメアリにトムとボブ、そしてオレ。結構な大人数になったなと思いながらやって来たのは購買部前のベンチ。
この学校、困ったところが一つある。下手に敷地がデカい分、移動に時間がかかってしまうのだ。それこそ毎度の講義の直前には全力疾走の学生を見るくらいなのだが、オレたちがいた講義室からここまで、かかっても精々5分と言ったところ。
たったそれだけの距離なのに、今のオレはひどく疲れていた。
理由はもちろん一緒にいた奴らのせい。メアリたちシーラン姉弟は学内でも有名人だ。目立つ風貌な上にダンスなんぞを嗜んでいるからか学内学外問わず顔が利く。トムとボブはあまり人と喋ろうとはしないが、根っからの性格が良いのだろう。悪い噂は全く利かないし、メアリにいたっては男女問わず凄まじい人気があるそうだ。
まぁ言うまでもなく、コイツらと一緒にいるオレは周囲から苛立ちの目で見られていることはいうまでもない。いつものことだから慣れてるけどさ、なんか今日は吉見春のこともあって少し疲れ気味だ。
そんなオレを気にしてくれたのか、トムとボブが購買部で買って来た飲み物をコチラに手渡して来た。いつものミネラルウォーター。いいじゃん。分かってるよ、お前ら。
冷えた水をグッと胃に押し込み、気を取り直す。きっちり全員に飲み物が行き渡ったところで、オレたちは話を始めた。まぁこんなに大人数が座れるわけではないから、オレとトムとボブがベンチを囲むように立つことになった。自分がベンチにダラんと座っていないことに少し違和感を覚えはしたが、女性を立たせたまんまっていうのも格好悪いことだ。トムとボブもそんなことを考えているのだろう、コチラをちらりとみてサムズアップ。何が言いてぇんだよとついつい苦笑いをしているオレをよそに、メアリはすっかり女子二人と仲良くなったようでケラケラと話をしている。
「あー……で、話して良いか」
楽しそうに話をする三人には悪いが、吉見春にはこの後バイトがあるっていうことも聞いている。それにオレやメアリたちに囲まれていては『普段通り』を再現することは出来ないだろう。だからこそここは手短に済ませておきたかった。
「コウジロウ、ちょっとは空気読みなさいよ」
いや、なんでそんな冷くあしらわれなきゃいけねぇんだよ。そもそもここに来たのだって、噂のことについて話すためだっつうのによ。仲良くなるんなら別のタイミングにするよ。
「そーですよぉ、メアリさんともっとお話してたいんですけどー」
そしてコイツだ。吉見春は全くオレに話しかけねぇくせに、この茶髪の女子だけはやたらとオレに突っかかってくる。お前は匠狙いじゃなかったのかよと言ってやりたくなるが、
「あーもういいからよ。とりあえず話すぞ!」
やはり時間が勿体無いと、勝手に話を進めることにした。
「で、あの噂の話だけどよ……メアリたちはなんか知ってることないか?」
先ほどまで吉見春たちと話していたんだ、少しは内容は分かっているだろう。
「えぇ。噂になっているからね。でも正直あなた達の知っている話と大差ないはずよ。ねぇボブ?」
ボブはゆっくりと頷いた。表情は巌のように硬い。
「そうなんですね。うちのグループでも大した話は出てなかったし、匠くんもうちのグループで出回っている情報までしか知らないって言ってたからなぁ。そうなってくるとやっぱり被害者になっている春が心配になりませんか? ねぇそうですよね?」
コイツは探偵にでもなったつもりなんだろうか。これは推理ショーじゃねえんだぞ。さながら自分が物語の謎解きの主人公になったかのように、茶髪の女子は難しそうな顔をしている。
「おい! ちょっと首突っ込みすぎだぞ!」
「えー、ここは協力しましょうよぉ。チームワークってヤツじゃないですか?」
茶髪の女子は得意げにそう言い放つ。いつからオレたちはチームになんてなったよ? 今日初めて会ったくらいだし、正直コイツの名前、まだちゃんと覚えてないぞ。オレの苛立ちを察知したのか、それを見てメアリがいった。
「アタシもコウジロウの意見に同意するけど……でも正直放っておくわけにはいかないわね?」
メアリの心配も理解できる。だから早い内にコイツを遠ざけておきたかったんだが、ここまで来ちまったら仕方がねぇよ。
「そう、だな。でもオレは正直手一杯だからさ……」
全部は語らずに、オレはトムとボブに視線を向ける。するとこう来ることが分かっていたかのように、ドンピシャりなタイミングでオレにサムズアップをするトムとボブ。かなり頼もしいもんだよ。
でもさ……ちっとは喋ってくれねぇか?
「いいわよ。この子については私たちがどうにかしてあげる」
結構気に入ったしねなんて続けながら、メアリが浮かべるのは女神のような笑顔。
あぁ。コイツもありがてぇ、良いヤツだわ。これでとりあえずオレは吉見春のことに集中できるが……
「ねぇ、これで春も安心だね?」
「そ、そうだね……安心だね」
彼女が浮かべた表情がどうにも引っ掛かったままだった。やはり何かある。そう頭の片隅で何かが必死にオレに訴えている。
そんな疑念を、オレは再び冷たい水で腹の奥まで流し込んだ。
カミガハラ R&G 桃kan @momokwan
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