第31話 これからの歩み
私と黒薔薇さんは、ジャンクフード店を出て歩いていた。雷菜ちゃんとは、帰り道が別だったため、既に分かれている。そのため、今は二人きりだ。
「黒薔薇さん、今日もありがとうね。一緒に帰ってくれて」
「別に構いませんわよ。私が、好きでやっていることですもの」
黒薔薇さんは、帰り道関係なく、私について来てくれている。そもそも、黒薔薇さんは送り迎えを車に頼っているため、歩いて帰る必要などないのだ。
それなのに、何故歩いて帰っているのかというと、それは恐らく私のためである。自分で言うのもなんだが、黒薔薇さんは私のことを心配して、ついて来てくれているのだと思う。
「総の手は、温かいですわね」
「あ、うん。ありがとう……」
私は、黒薔薇さんと手を繋いでいた。二人で帰る前から、黒薔薇さんは手を繋いできたのだ。
断る理由はないので、私はそれを受け入れている。というか、むしろ私としては喜ばしいくらいだ。黒薔薇さんから手を繋いでくれて、本当に嬉しい。
「今日はありがとうございました。楽しかったですわ」
「そう? それなら、よかったよ」
「私、あのように寄り道したことはありませんでしたわ」
「そうなんだね……」
歩きながら、黒薔薇さんは今日のお礼を言ってきた。黒薔薇さんは、今まで寄り道をしてこなかったようだ。
それは、理解できる。黒薔薇さんは友達がいなかった。だから、そのような機会はなかったのだろう。
「総は、私を本当に変えてくれましたわね?」
「え? ああ、そうなのかな?」
「ええ、前までの私なら、興味があっても、あのような場所に行こうとは思いませんでしたわ。総が、行ってみようと言ったから、行く気になったのですわ」
黒薔薇さんは、私に笑顔でそう言ってくれた。黒薔薇さんは、私が行ってみようと言ったから、ジャンクフード店に行ったようである。
それ程まで、私が黒薔薇さんに影響を与えていたのだ。それは、喜ぶべきことだ。黒薔薇さんが楽しいと思えることが増えてよかった。
「……不思議なことなのですが、私はあなたの記憶が消えなくてよかったという気持ちと消えて欲しかったという気持ちを、どちらも抱えているのですわ」
「え? どういうこと?」
そこで、黒薔薇さんは不思議なことを言ってきた。黒薔薇さんは、私の記憶が消えなくてよかったという気持ちと、消えて欲しかったという気持ちのどちらも抱えているらしい。
それは、どういうことなのだろうか。前者は、出会ってよかったということで理解できる。ただ、後者がどういうことなのかわからない。まさか、私と出会いたくなかったとでもいうのだろうか。
「当然のことですが、あなたの記憶が消えなかったことで、こうして一緒にいますわ。それは、嬉しいことですの」
「うん……」
「でも、あなたの記憶が消えていれば、あなたを戦いに巻き込まなかったのではないかとも思ってしまうのですわ」
「黒薔薇さん……」
黒薔薇さんの言葉に、私は納得した。黒薔薇さんは、私の記憶が残ったから、戦いに巻き込んでしまったと考えているようだ。
それは、恐らく、カマキュラーとの戦いが、黒薔薇さんにもたらしたものなのだろう。私がカマキュラーに狙われたのは、スパイダスとの戦いの場にいたからだ。その戦いに私が巻き込まれたのは、私が魔女になることになったからである。
元を辿れば、私野記憶が消えなかったから、そのようなことが起こったのだ。だから、黒薔薇さんは記憶が消えればよかったと考えているらしい。
「それは違うよ」
「え?」
そんな黒薔薇さんの考えを、私は真っ直ぐに否定した。
黒薔薇さんの考えは、間違っている。私は、そのように考えていた。
私は、自分の思いを伝えられるように、黒薔薇さんの手をしっかりと握る。この思いは、必ず届けなければならない。
「私は、黒薔薇さんと出会ってよかったと思っている。記憶が消えてよかったなんて絶対に思わない」
「総……」
「例え戦いに巻き込まれたとしても、私はこの出会いに後悔なんてしていない。記憶が消えるなんて、そんなのは考えたくないことだよ」
私は、記憶が消えて欲しかったなどとはまったく思っていなかった。黒薔薇さんとの出会いがなくなってよかったなどとは、絶対に思わないのである。
だから、黒薔薇さんに消えて欲しかったという気持ちを持って欲しくはない。そんな悲しいことを言わないで欲しいのだ。
「……そうですわね。あなたとの出会いをなかったことにしたいなど思うのは、あなたに対して失礼ですわね」
「あ、いや、失礼という訳ではないけど……」
「いえ、私としたことがなんだか弱くなっていましたわ。そのような考え方をするなど、あってはならないことでしたわ」
私の言葉を受けて、黒薔薇さんはそのように考えを改めてくれた。その言葉を放つ黒薔薇さんは、堂々としている。
それは、いつもの自信に溢れた黒薔薇さんだ。やはり、黒薔薇さんはこのように自信満々である方が似合っている。
「そもそも、総が危なくなったのならば、私が守ればいいだけですわ。私はとても強いのですから、そのくらいのことはできますもの」
「うん。頼りにしているよ、黒薔薇さん」
黒薔薇さんは、私が危ないのならば自分で守ればいいと結論を出した。強いと自負している黒薔薇さんだからこそ、そのように言えるのだろう。これでこそ、黒薔薇さんだ。
「でも、私も守られてばかりでいるつもりはないよ。もっと強くなって、黒薔薇さんに負けないように……できるかはわからないけど、戦えるようになるよ」
「総……」
ただ、私も守られてばかりでいるつもりはなかった。私も戦えるようになって、自分の身は自分で守れるようになるのだ。
今までは、戦う覚悟を決めていなかった。だが、今回の戦いでその覚悟を決めることができたのだ。
私には、強い魔力がある。その魔力を生かすために、私は戦うべきなのだ。
「総も、かなり変わったようだですわね」
「え? そうなのかな?」
「ええ、戦いの決意を固めたいい顔をしていますわ。たった数日の出来事でしたが、総はかなり成長したようですわね」
私の決意に、黒薔薇さんはそのように言ってくれた。どうやら、私はかなり変わっているようだ。
確かに、黒薔薇さんに魔女に言われた時は、このような決意をするとは思っていなかった。むしろ、戦うなど怖くて仕方ないという風だった気がする。
そんな私が、このように決意を固められたのは、色々なことを経験したからなのだろう。スパイダス、カマキュラー、ハニリッチ、女王。それらの戦いは、私の考えを変える程の出来事だったようだ。
だが、何より私が影響を受けたのは、黒薔薇さんだろう。彼女の生き様を見ていたからこそ、私は成長したのである。
「総、これからもよろしくお願いしますわ」
「うん。こちらこそ、よろしく」
私と黒薔薇さんは、笑顔でそう言い合った。これからも、黒薔薇さんとは一緒に戦っていきたい。それに、友達としても一緒にいたいと思う。とにかく、これからも、よろしくお願いしたいのだ。
「ああ、総のことは大切に思っていますが、魔女の指導は容赦しませんわよ。戦うと決意したなら、先日のような生半可な訓練では済ませませんわよ」
「それは、お手柔らかに頼みたいけど……それでも、強くなれるなら、頑張るよ」
私と黒薔薇さんは、しっかりと手を握り合いながら、ゆっくりと歩いて行く。
黒薔薇さんとの出会いは、私に様々なものをもたらしてくれた。そんな彼女と、私はこれからも歩いて行くのだ。
黒薔薇の魔女 ~クラスメイトのお嬢様は魔女でした。そして、私も魔女になるようです~ 木山楽斗 @N420
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