最終話(3/3) やっぱりルールは大事だよね
◆ ◆ ◆
俺が
「お祝いしないといけないねー」というセアラの提案で、俺は亜月と初めてのデートをした丘の上のカフェレストランに行くことになっていた。
もちろん亜月も一緒だ。
「もちろんってさぁ、もしかして私に来てほしくなかったの?」
駅までの途中。隣を歩く亜月がジト目を向けてきた。
「そんなわけないだろ。どちらかと言うと、セアラに来てほしくなかった」
「そ、そう……」
「そうだ」
胸を張って応えると、亜月は耳まで真っ赤にしていた。
》この間の告白から
そうか? 自分ではそんなつもりはないんだけど。
》うん、心の声と口に出す言葉がほとんど変わらなくなった《
「マジか?」
「うん」
「もしかして亜月がかわいいって言うのも口に出してたか?」
「それは1回だけかな。たまたま目の前にいたのが
「しかも、
それはちょっと悪いことをした。
俺のことが好きだって伝えてくれた娘の目の前で、ほかの女の子がかわいいって口に出すのはひどいな。
けど……。
「けど、どうしたの?」
「聞くのか?」
「そんな中途半端なところで黙り込まれたら気になるでしょ」
「そうか……」
「で、何なのよ?」
「でも亜月がかわいいのは事実だから仕方ないって思ったんだよ」
亜月が言えというから告げたのに、亜月は
「もうっ!」
と俺の腰の辺りにボスっと拳を叩き込んできた。
「ちょっとっ! 叩き込んできたってどういうことよっ? かわいらしくボディータッチしてきたぐらいの表現にしなさいよっ!」
「さすがにあれはボディータッチとは言えないな」
わざとらしく俺が腰をさすると、亜月は今度はパチンと俺の頭をはたいてきた。
「今のは撫でてあげたのっ!」
「そうか?」
「そうだよ。だって……」
「だって何だ?」
》だって私のことをかわいいって言ってくれたから《
亜月は俺から顔を背ける。
やっぱりかわいい。
そんな風にして歩いていったから俺と亜月が駅にたどり着くのは時間がかかって、セアラはバス停のそばに立って俺たちを待っていた。
いつものようにスティックの付いたキャンディーをなめながらスマホをいじっている。
ギャルっぽい見た目の割りにセアラはいつも時間を厳守する。
今日ももちろん派手な服装。大きなロゴのついた白いTシャツに、なんかよく分からないけどフリフリがたくさん付いた黒いスカートというコーディネート。
「パニエだよ」
「へ?」
「だからセアラの服。パニエって言うの」
「そうなんだ。……っていうかそろそろルールを守れよ。人が多い所なんだから」
いつものように亜月を注意する俺に、亜月は「はあ」とため息をつく。
「もういいんじゃないの? 私たち付き合ってるんだし」
「そうだけど……」
俺は反論しようとするのだが、亜月がさらりと「付き合ってるんだし」と言ったことに動揺してしまって言葉が出てこない。
「もうっ、今さら恥ずかしがらないでよ。それに私もさらりとは言ってないんだからねっ! ちょっと恥ずかしかったんだから……」
「じゃあさ、ルールを守ってくれないか?」
「それとこれとは別なのっ!」
何が別なのか俺には分からない。
でも俺がそれを
「いいねー、そのまま続けてよー」
いつの間にかセアラが俺たちの目の前に立っていた。
スマホを横向きに持って俺と亜月の方に向けている。
「セアラ、何してるんだよ?」
「えー、見れば分かるでしょー?」
「分からないから
「そっかー。2人の動画を撮ってるんだよー」
「はぁっ? そんなことしてどうするんだよ?」
「決まってるでしょー」
とセアラはスマホを仕舞ってニカっと笑う。
「中野っちとあづっちのー、結婚式で流すんだよー」
「なっ!」
絶句する俺の隣で亜月は頬を真っ赤にして口元を手で隠していた。
「だってー、付き合い始めたんだからー、次は結婚でしょー?」
「そんな話は亜月とはしてない」
――まだ。
と思わず心の中で付け加えたのが間違いだった。
「まだ、なんだ。じゃあそのうちってことなの?」
亜月が顔を伏せながら上目遣いで俺のことを見つめてきた。
「へー、中野っちは心の中で将来の計画を立ててるみたいだねー」
「違うからっ! 俺はまだ結婚までは考えてないって思っただけだからっ!」
「なるほどー、まだ、なんだねー。式場はどうするのー?」
「それは姉ちゃんと亜月のお母さんが下見に行ったって言ってたけど。……ってそんな先のことを俺は考えてないっ!」
「へー、でもいいなー。ほんっと、末永くお幸せにーって感じだねー」
声を荒げる俺をセアラは容赦なく責め立ててくる。
亜月はどうしてるのかと思って様子を窺うと、リンゴかよってツッコミたくなるぐらい赤くなっていた。
「……やっぱり恥ずかしいね」
「だろ? だからルールを守ろうって言ってるんだよ」
「そうだね。やっぱりルールは大事だよね」
「ちゃんと守れよ。――亜月が言ってほしいことはちゃんと口に出して言うから」
そう告げてからさすがに今のはクサすぎたなと気付く。
亜月も目をグルグル回している。
そうして恥ずかしさのあまり黙り込む俺たちを救ってくれたのは、初デートの日と同じくバスだった。
「バス来たよー」
ニヤニヤしながら俺たちのことを見ていたセアラがバスの方へ歩き出す。
「……行こっか?」
「そうだな」
差し出された手を握ると、亜月はギュッと握り返してくれた。
(了)
テレパシーの両片思い~俺と幼馴染のあいつはお互いの心が読めるけど絶対に告白しない~ 秋野トウゴ @AQUINO-Togo
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