第3話 21-30
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11-21 帰り道
外灯のない堤防の道を自転車で走っていると、道の真ん中で影がわだかまっているのでブレーキをかけると背後から衝撃を受け、体がハンドルを越えてそのわだかまりの寸前までヘッドスライディングした。その影は亀で、甲羅の上には全世界が載っていた。「アウト」と亀が鳴いた。
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11-22 遥かな
♪はぁーるかぁーぁなーぁーはぁーるかなぁーさー
beep! それは静かなです。
なかなか帰省できない想いを託してみたんだけどな。
著作人格権 法19条と20条違反になります。
はいはい。でさ、ワクチンっていつ来るの?
春かな
駄洒落かよ。
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11-23 ささくれ
ふいに現れて、生活と感情を掻き乱して、それでふっと消えちまう。そうすると清々する反面、痛みや恨みなんかをきれいさっぱり忘れちまうのが、それが何だか寂しくなっちゃってね。
だから、私はささくれのことを「寅さん」って呼んでるんですよ。呼んでませんけどね。
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11-24 額縁
絵も写真もデータが主流になるなら「額縁もデータ化すればよい」などというべきではない。額縁とは異化である。額縁の内外を仕切る三途の川のようなものだ。
今、ヴェゼルは風前の灯だ。データがリアルへ浸潤し、リアルがデータ化され尽くすのは時間の問題なのだ。戦え額縁!
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11-25 幽霊船
鵜飼船だと思っていた。
だが、篝火の炎色が波立つ川面に散る中を、何十本ものピンと張ったロープの先で、激しい水音と飛沫を上げる黒い大きな影は、全て犬の形をしていた。やがて次々と船に引き戻された犬が船上に吐き出したものの重みで、その船はゆっくりと沈んでいった。
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11-26 寄り添う
つまりそれは、体温なんだと思う。言葉は、文字でも声でも、やっぱり少し遠さを感じてしまう。淋しいのは体じゃないけど、ほしいのは自分のものではない鼓動をもった身体の温もりだった。それだけでよかった。こころなんていらないから。ヒトでなくったって構わないから。
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11-27 外套
颯爽とはをる外套と背の狭間 誰かを挟み撃ちにした午後
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11-28 霜降り
霜降の朝の蹠に砂利の凹
霜降:そうこう 蹠:あうら(足の裏)
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11-29 白昼夢
白昼夢カプリチョーザを猫と冬
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11-30 塔
いつでも、水平線を貫く三本の塔が見えていた。違う。引っ越す度に、私は、この塔が見える部屋ばかりを選んできたのだ。朝の霞に紛れ、昼の日差しに溶け、夕方の西日に赤く、夜光虫にライトアップされる三本の塔。
いつでも風はそこから吹いてくる。これまでも、これからも。
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#novelber 2020 1-30 新出既出 @shinnsyutukisyutu
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