第2話 11-20

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11-11 栞

夜、自転車で帰宅していると、蜘蛛の糸が顔に絡んだ。その糸は強靭で、わたしは危うく急停車した。昼間は自らを跡付ける栞糸だが、夜間には捕食の道標となる。そんなことを思いながらわたしは、何匹もの蜘蛛が栞糸を手繰ってくる振動を感じていた。

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11-12 ふわふわ

混雑するカフェスタンドで、明かに遅刻している店員の到着を待ちながら、ワンオペ状態で長蛇の列をさばく店員は、眉間に皺をよせ、マスクの下で歯をくいしばりながら、今朝245杯目のラテに、ふわふわ泡を立たせている。

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11-13 樹洞(じゅどう)

 古い文献によれば、ここに、体中の骨が脂肪になった少女がいるはずだ。私は狭い樹洞へ顔を差し入れた。かつて、その官能に憑かれた男が、少女に接吻して窒息死したという。ところで今、わたしの顔が抜けないのは、中に少女がいたためではない。サイズのせいだ。

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11-14 うつろい

全て世は移ろいながらさりながら空ろなる器の美酒飲みきらむ

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11-15 オルゴール

鬼平犯科帳のオルゴール。腕のよい鋳物職人。実は、錠を見て合鍵を作るというお勤めをする鍵師。その腕前を試すために盗賊の大親分が南蛮製のオルゴールの錠を作らせて…… という筋立て。最後、久栄さんがそのオルゴールの隠し螺子を探し当て平蔵唸る。そんな話。確か。

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11-16 無月

 真っ暗な突堤で子供が一人、腹ばいになっていた。わたしは懐中電灯を向け「何か落ちたの?」と訊ねた。

「月落ちた。テトラポット砕けた。欠片たくさん。フナムシ食べた」

 子供の顔は砕けていて、欠片がフナムシだった。その子はその歪んだ口でフナムシを吸い取っていた。

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11-16  無月(重複)

突堤や無月の海へ薄明り

竿二本無月の空に振り上げる

フナムシの風に蠢く無月かな

テトラポット表も裏も無月なり

傾ぐブイ掴みどころのなき無月

突堤に欠片を探す無月かな

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11-17 錯覚

「♪上っていたと思っていたら~下って~ました~。畜生ーッ」

という小梅太夫さんのネタがとても好きです。ムーンウォークの世界チャンピオンだという点を踏まえても、含蓄あるネタだと思います。あと、道路に穴やバンプがあるように見せる錯覚アートで転びました、昨日。

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11-18 微睡み

猫に見下ろされながら高い天井から下がるランプの振幅がしだいに螺旋の回転に変化していくところが、とてもコリオリ力だがフーコーの振り子でダウジングをした結果掘り当てた水脈がニャー。布団を上げて、枕をトントンと叩くと、猫が腹の中で丸くなった。もう少しだけ……

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11-19 カクテル

わたせせいぞうさんのハートカクテルが好きだったが、本はハードカバーで大判だったため棚に入らず、組み立て式のカラーボックスを横置にして、そこに並べていた。すると本の上に猫が丸くなれる程度の隙間ができる。なのに家には猫がいなかった。もう四十年近くも前の話だ。

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11-20 地球産

地球の重力下での分娩によって胎児が回転し、よりスムーズなお産が可能となります。その際、体の突端に渦上の文様が残りますが、それが右向きか左向きかによる差別をなくすことが我々の活動目的のひとつです。

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