#novelber 2020 1-30

新出既出

第1話 1-10

11月にtwitterに現れる #noveber  2020年に初参加。

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11/1 門

 『草枕』『それから』『門』の三部作が好きだ、とドトールで語る男に退屈していた。

「で、あなたは何を書いたの?」

 と尋ねると、

「僕は書かない。書く必要がないからね」と、軽薄に笑った。

「あなたに『門』はわからないよ」

 私は、卓上のおきあがりこぼしを小突いた。

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11/2 吐息

 吐息に囲まれ、吐息を吹きかけられながら吐息と共に生まれた男、傘をさすほどでもない吐息のような雨の墓地に、マスクで眼鏡を曇らせるほどでもない吐息のような読経に送られ、早すぎた埋葬に漏らす11月の朝の吐息は。

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11-3 落葉

 店のテーブルにイチョウの黄葉が一枚置いてある。雅なことをする、と思いながらノートパソコンを取り出し、店のfreeWiFiに接続する。そういえば電波の強さを示す記号は葉っぱに少し似ている。そう思ったら、それがタスクバーからカサリと落ちた。テーブルの黄葉が二枚になる。

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11-4 琴

 姿勢の正しい男だったが、立ち居振る舞いの度、琴の音が漏れ出した。

「床の間に立て掛けてあった母の琴を呑み込んだのです」という意味の琴の音が、男の胴から滲んでくる。

「息苦しいとか、どこかが痛むというようなことは?」

と尋ねると、

「腰痛が治りました」と鳴った。

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11-5 チェス

ベッドサイドのテーブルにはチェス盤をおいた。寝る前に一手か二手、駒を動かしてみる。ずっしりとした駒をコトリと盤上に置く音が一日を締めくくり、明日へつなげてくれる。ルールなんて知らない。でも生きていくってことはきっと、こういうことなのだろう。

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11-6 双子

宇宙のどこかにわたしがもう一人存在していて

生きていくというのはそのもう一人のわたしと

巡り合えるかもしれないという不安と苛立ちと

出会ってしまったら「やあ」なんて挙げる手と

唇のひん曲がり具合やなんかも全くおんなじで

なぁんて双子を知らない人たちは考えたりする

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11-7 秋は夕暮れ

清少納言って人のことあんまりよく知らないけど、多分おうし座だと思う。秋の夕暮れって無理なのに、それを「いい」って言っちゃうのって絶対、涙こらえて強がってるに決まってる。それで長い長い夜が怖いんだ。分かるなぁ。もしかして、清少納言ってわたしなんじゃない?

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11-8 幸運

土曜の帰りのHRが終わる。弁当を持たない生徒たちは「打倒T」の旗印の下、団結して売店へ走る。

だがTは、卑怯な包囲網を掻い潜り、いつも先頭で売店に飛び込むとやきそばパンを買い占め、食べるための一個以外を、幸運の女神の祭壇に、蝙蝠の黒焼きとともに捧げるのである。

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11-9 一つ星

 くらむぼんから逃げながらスイミーは呼びかけた。だがみんなかぷかぷ食べられた。スイミーは悲嘆に暮れて死にました。でもくらむぼんは、冷たい海から魚を守るシェルターだった。やまなしは不憫に思い、スイミーを星座にしてあげた。たった一つの一等星。秋の一つ星として。

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11-10  誰かさん

最上階の、貸し切り露天風呂の予約帳によれば、今、入浴しているのは「誰かさん」らしい。部屋番号を書くべき欄に「誰かさん」と書いてあるのだ。間もなく入替の時間になる。わたしは「誰かさん」が出てくるまで、「絶対に外れない知恵の輪」を外そうと躍起になっている。

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