わたし、学校に通いますっ! ~プロローグ~

「学校では言えなかったけど、私、皆沢さんのこと苦手なの」

「光崇と一緒に住んでいることを知っているみたいで、根掘り葉掘り聞かれるの」

「皆沢さん言ってた『月岡くんと私は将来結婚する仲なんだから近づかないで!』って」

学校が終わって家に帰ってから、俺の部屋でかぐや姫はぽつりとつぶやいた。

「あぁー、あいつならやりかねんな……」

頭抱えたくなるよ。あいつに目をつけられたらマジで面倒くさい。

「光崇、皆沢さんと結婚はホント?」

かぐや姫は不安気ふあんげに聞く。

「そんな訳あるか。あれ皆沢が勝手に言ってるんだよ。皆沢のとこの会社がうちの会社をグループ会社に迎え入れる、将来俺が皆沢のとこに婿養子むこようしに入るって」


俺が中学校のときにそんな話があった。

皆沢のとこは月光学園の経営以外に金融事業やアパレル事業など幅広く展開していて、家具・インテリア事業もその一つ。俺の家が経営している老舗家具メーカーの「ムーンヒル」に目をつけた。

老舗しにせブランドということから信頼度が高いだろうと。

またじーちゃんは顔が広いから地元の議員やなどと仲がいい。皆沢の家の狙いはそこである。将来誰か議員になるんかね。

皆沢の両親が突然訪問からの『光崇くんを皆沢家の婿養子に欲しい』『永利ながとし様は顔が広いとお聞きしてます。是非うちのグループ会社に入って欲しい』と。

もうじーちゃんととーちゃんはカンカン。

『うちの息子とおたくのお嬢さんを結婚させる!? ふざけんな!』

『私の今の人間関係は、長い間の積み重ねだ! おたくらに簡単に取られてたまるか! けぇれ!』

とクイックルワイパー片手に振り回したじーちゃんが皆沢の両親を追い出した。

  


俺は皆沢のことが苦手だから断固拒否だんこきょひしたかった。

「私は皆沢家の後継者なのよ! だから付き合って!」と何回言われたのやら。

毎回断っているし、両親やじーちゃんが注意してもどこ吹く風。

「皆沢さん、しつこいのね……その執念しゅうねんもっと別のとこに活かせばいいのに」

と苦笑いするかぐや姫。

ほんとそれな。

「でも皆沢さんって本当に光崇のこと好きなのかな?」

まるで純粋な疑問と言わんばかりなかぐや姫。

「皆沢家後継者で必要って言っていたけど。本当に好きなら、そんな言い方しないし、何で光崇のことが好きなのかよくわからないね」

言われてみれば、皆沢から俺の「どこが好き」という具体的な理由を一度も聞いたことがない。

光崇てるたか、私は大丈夫よ! 本当に何かあったらちゃーんと言うからねっ。光崇もなにかされたら話してよ。私は思い悩んでいる光崇を見るのが嫌だよ」

「ほら、笑って!」

かぐや姫は俺の頭をポンとでた。


――なんだろ、この心地良い感じ。

思わず笑みがこぼれた。

今こうやってかぐや姫といる時間が一番安心する。


俺は無意識にかぐや姫の肩に寄せた。

ふと思う。このままずっと一緒に入れるのかな。

「てーるたか! かぐちゃん、そろそろご飯よー」

「お義母かあさん、見てくださいよー。夕飯前なのに2人ともイチャイチャしてますよー」

「か、かあちゃんにばーちゃん……」

いい雰囲気だなと思ってたのに、ドア開けた2人が俺たちを見て冷やかしてきた。

「あらあらまぁ。青春ねぇ」


「行こうか、かぐや姫」

「うん」

かぐや姫は俺の手をさりげなく握ってきた。

華奢きゃしゃな手が愛おしい。



次の日から皆沢達からのかぐや姫への嫌がらせの序章が始まろうとしていた。


――そしてかぐや姫がいつかいなくなるカウントダウンの足音が近づいてくるのだった。

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わたし、かぐや姫と申しますっ! 月見里ゆずる(やまなしゆずる) @nassyhato

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