わたし、かぐや姫ともうしますっ!

俺の朝は早い。

6時の日の出ともに起きる。別に理由はない。

単に目が覚めただけである。

夏休みなのでゆっくりしようと思えばできる。

日光に当たるとスムーズに目が覚めるというけど本当である。

「う、うわ!? な、なんでこんなとこに!?」

布団の後ろに昨日の日本人形が座り姿でいた。目が合ってしまった。

思わず飛び起きた。


警察に届けたのに。なんで?

「光崇! どうした……あれ、なんであの人形がここにいるんだ?」

隣の部屋で寝ていたじーちゃんとばーちゃんが俺のところへやってくる。

「まぁ!? これが昨日おじいちゃんと光崇が言っていたお人形さん?」

「うん」

「ちょっと触っていいかしら?」

とおばあちゃんは日本人形を持っていき抱える。

「まぁ、可愛らしいじゃなーい」

おばあちゃんの頬がゆるむ。

しげしげとながめるおばあちゃんにじーちゃんは「ばーちゃんが喜んでいるんだ。いっそのことここに置いておこう」

「えっ、マジで? じーちゃんばーちゃんの部屋に置いておくの?」

「そうだな。ばーさん良かったな」

ばーちゃんは満面の笑みになる。


――となったものの。3日後。

「…るたかっ! てーるたかっ! 起きてっ!」

枕元で俺を揺すりながら高い声で起こす。ソプラノっぽい。

お母さんか? うちの母さんそんなに声高くないし。

「…う、うわっ! だ、誰だ! お、お前、じーちゃん、ばーちゃんの部屋にいたんじゃ…!?」

例の日本人形が俺の枕元まくらもとにいた。

「うふふ、おはよう。光崇てるたか

日本人形は手で口元を隠して上品に笑う。


しかも喋ってるし! 動いてるし! 俺の名前呼んでるし! どういうこっちゃ!?

てか、昨日までじいちゃんの手のひらに乗るぐらいだったのに。

急に大人っぽくなったような気がする。

目はパッチリ二重、まん丸な顔つき。豊満な胸。鼻が高い。腰まで届くつややかな髪。どこのシャンプーのメーカーを使っているか聞きたいぐらいだ。

「じ、じーちゃん! ばーちゃん!」

パニックのあまり隣の部屋の祖父母をたたき起こす。

「うーん、なんじゃぁ……」

「朝から騒々しいですよ」

「じーちゃんばーちゃんの部屋にあった人形が、ま、また、俺の部屋に!」

パニックで要領ようりょうよく言えていない自分。

「えっ? ……まぁ、本当ですわ。昨日わたしと一緒に寝てたのに……」

ばーちゃんが布団をめくるといなかった。

お気に入りのあまりばーちゃんは布団の中にいれて一緒に寝ていた。

祖父母を俺の部屋に連れて、実物を見せる。

「あっ、おじいさま、おばあさま。おはようございます」

日本人形はうやうやしく挨拶する。

「お、おはようございます……一体どうなんてんだ?」

日本人形につられて祖父母が朝の挨拶をする。

「友人がお孫さんへのプレゼントで女の子の人形あげてたけど、最近のは本物の人間のようなつくりになってるそうよ。そんな感じかしら?」


いや、人形にしてはめっちゃリアリティあるし、だいたい俺の名前呼んでるとこで人形じゃないような……。教えた覚えないし。

祖父母の部屋にいた人形が俺の部屋に来て、しかも枕元で俺の名前呼んで起こしてるし、一体何がなんやら。

「この子は光崇のことがお気に入りのようだな」

「そうね……寂しいわ」と残念そうなばーちゃん。

「よし、それならいっそのこと名前付けよう!」

じーちゃんの思いつきに「はぁ?」と思わず言い返す。

「俺の知り合いにな寺の住職がいるんだ。ほら御室寺みむろでら秋田あきたのおっちゃん。光崇もお前の父ちゃんもそこでつけたんだよ」


誰だよ。そんなおっちゃん。

ただ俺の名前が同年代にしてはちょっと古臭いなとは思ってたけど。


「おじいさま。その必要はありませんわ。わたしにはきちんと名前がありますもの」

一同えっと声を上げる。


「――わたし、かぐや姫ともうしますっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る