【短編版】学校に内緒でダンジョンマスターになりました。Ⅰ
琳太
【短編版】学校に内緒でダンジョンマスターになりました。Ⅰ
俺の名前は
迷高専────日本探索者協会立第三迷宮高等専門学校探索者科、
199X年、地球の各所にダンジョンが現れた。
当時は世紀末がどうの、ノストラダムスの預言がどうのと騒がれていたせいで、この世界規模の異変は日本人には比較的受け入れ易かったらしい。
爺ちゃんや親父は「すわっ、世紀末滅亡予言が的中?」とか思ったってよく言ってたな。
俺が生まれる前のことだ。
爺ちゃんや親父から聴いた話と、学校で習うことは微妙にズレがあるが大筋は変わらない。歴史ってそんなもんだろう。
世界中で同時多発的にダンジョンが出現した。
訳も分からず、面白半分でダンジョンに入った者の多くは帰ってこなかった。
ダンジョンが現れてからの対応は各国様々だ。
多くの国の政府は警察や軍隊を派遣し、ダンジョンの探索を始めた。
日本では自衛隊と機動隊が出動し、多くのダンジョン封鎖を行った。
しかし数年後、封鎖したダンジョンの中からモンスターが溢れ出す。所謂【スタンピード】ってやつだ。
政府が封鎖せず〈研究〉と称して自衛隊が攻略していたものは無事で、物理的に封鎖したものから【スタンピード】が発生したため、攻略もしくはダンジョンモンスター討伐をせずにいると【スタンピード】が起こることがわかった。
また、山の中や人の少ない土地で、発見されていないダンジョンが多くあった事をこの時人々は知ることになる。
政府は自衛隊や警察だけでは対応仕切れず、ついに一般市民から有志を募った。
これが日本の【
ダンジョン内でモンスターを倒すと徐々に身体能力が上ることがダンジョン研究者により報告されていた。
だが、なぜか銃や爆弾などを使った攻撃ではほとんど能力上昇の効果がなく、ナイフや肉弾戦により倒すことでその効果が得られるという謎構造だった。
弓や投擲は人力と判断されるのかこれも有効なのはさらに謎だ。
ここからすこし世界が【探索者】として力をつけたもの達により混乱するのだがまあそれは置いておく。
北の某国がモンスターを捕らえ他国を侵略する兵器にしようとして失敗、核を暴発させて壊滅状態に陥った。現在世界地図から北の某国の名前は無く、半島はえぐられれちいさな島になっている。
ダンジョン出現から10年が過ぎた頃、多くの国は【探索者】を管理するために【探索者協会】を国連主導の元作り上げる。
現在では各国の【協会】は国の政治機構とは別の組織となり国の枠を超えて世界規模の組織となった。
始まりはアメリカのとある【探索者】だったそうだ。
【国際探索者資格】は今ではどこの国でも共通のライセンスとなっている。
国際探索者協会ーInternational Dungeon Diver society ー略してIDDS。
そして日本には下部組織である日本探索者協会ーJapan Dungeon Diver society ーJDDSがある。ダンジョンに関してDDSが世界統一基準を作り出した。
協会の発行する〝迷宮指標〟には研究の末判明したシステムについて記されている。
ここ、試験にでるからな。
・モンスターを倒すことで得られる〝なにか〟を【経験値】と称した。一定の【経験値】を得ると【能力】が上昇する。この能力上昇を【レベルアップ】と称した。
当時RPGなどで使われていたシステムを参考に【経験値を得てレベルアップすることでステータス値が上昇する】という考えかたがピッタリ符合したのだ。
多分研究者にゲーマーがいたんだろうな。
実際ゲームのようにステータスが表示されたりレベル表示があったりはしないから、力を確認する方法は体力テストをするしかないのである。
学校の体力測定でお馴染みの、100メートル走や握力、背筋、垂直跳び、反復横跳びなどなどである。
さらに研究が進み、【レベルアップ】に必要な【経験値】の割合が年齢によって異なることが判明。
若い方が【経験値】を得られやすいのか、【能力値】が上がりやすいのかは判明していないが、若い方が能力の上昇が早いのである。
20代と50台では倍ほどの差が現れた。
特に著明に上昇を見せたのは第二次性徴期後半、いわゆる思春期に当たる若者だ。
思春期というものには個人差があるが、著明に上昇を見せたのが、おおよそ15から20歳の青少年だった。
今はない某北の国ではさらに低年齢者のダンジョンアタックを行なったそうだが、幼すぎるものは反対にステータスが上昇しなかったそうだ。のちに亡命したものからこの情報は世界中に知れ渡った。
現在IDDSでは十五歳以下のダンジョンアタックを禁止しており、破れば本人だけでなく保護者や周辺の大人まで罰則対象になる。
そしてダンジョンが現れて十年が過ぎたころに、日本では迷宮探索者を育てるための日本探索者協会立迷宮高等専門学校が設立された。
ここを無事卒業できれば一流どころの探索会社やクランに就職できるのだ。
【レベルアップ】以外にもダンジョンでは特殊な力が手に入る。
【スキル】だ。
「ダンジョンモンスターは摩訶不思議な存在だ。ダンジョン自体摩訶不思議な存在だがな」と親父達は口を揃えていうけど、俺にとっては「ダンジョンとはそういうもの」という認識で摩訶不思議とは感じない。
ジェネレーションギャップというやつかな。
ダンジョンのモンスターは生物の営みによって生まれない。突然湧き出すのだ。
モンスターを倒すと、その体は黒い粒子となって消える。そのあとには【ドロップ】と呼ばれるものだけが残り、死体はない。
だがモンスターがダンジョンから出ると、その理りから外れ肉体をもつ。これを【受肉】と呼んでいる。あ、これも試験に出るぜ。
【ドロップ】の多くは【魔石】と呼ばれるある種のエネルギーを内包した石や、【素材】と呼ばれるそのモンスターの身体の一部だ。だが稀に【スクロール】と呼ばれる巻物を落とすことがある。
【スクロール】には様々な知識が記されていた。書かれている文字は読めないのだが、【スクロール】を開くと、そこにある知識や能力が直接脳にインプットされるのだ。
この能力が【スキル】と呼ばれる特殊な力である。
【スキル】を得ることにより様々なことが起こった。
【薬学】のスクロールは様々なダンジョン素材で作られる魔法薬の調剤方法が記されており、それにより魔法薬学が確立された。また【調剤】スキルを持つものは魔法薬の精製能力が上がる。
【体術】のスクロールは、様々な格闘能力が上がるな。
【魔法】のスクロール。そう、魔法だ。昔は小説やゲームの中にしかなかった魔法が使えるようになる。
俺的には物心ついた頃には魔法は存在していたので、爺ちゃんや父さんほどの驚きはないんだが。
だがこの【スキル】も【レベルアップ】した能力もダンジョンの中でしか効果がなかった。
研究者は様々な説をとなえたが、魔法やスキルを使用するためのエネルギーは【魔力】と命名されたが、この【魔力】はダンジョンの中にしかない、というのが有力説だ。
ダンジョンから出ればスキルは発動しないが、身体能力はダンジョン内での能力値のおよそ1割ほどは上昇していることが今日ではわかっている。
探索者の主な収入源は【魔石】と【素材】と【スクロール】である。特に所謂【回復系】と言われる魔法だが、そのうちの超レア魔法の【治療】が、癌などの病気に効果があるとされ、【治療】のスクロールは現在超高値で取引されている。
最後に発見された【治療】のスクロールは数十億円で取引されたらしい。
協会は【制覇】したフィールド型ダンジョン内に治療施設を作り運営している。そこに行けば超高額だが不治の病が治るのだ。
現在協会は制覇済みのダンジョン内に様々な施設を作っている。
俺の通う日本探索者協会立第三迷宮高等専門学校もそんな施設の一つだ。
ちなみにスキル名は開いた人間の使用する言語におきかえられる。日本語なら〈怪我治療〉なのだが何故か英語の〈キュアウーンズ〉で言う奴が多い。日本人は厨二病を患ったやつが多いのかもしれないとどこかのコメンテーターが言っていた。
いや唱える時〈キュアウーンズ〉や〈キュアディシーズ〉の方が〈怪我治療〉〈病気治療〉よりかっこいいよな。
俺も〈灯〉でなく〈ライト〉って言ってるし……
そう、俺は〈ライト〉のスキルを持っている。
高専ではスキルの習得は三年生からとされているが、俺はある出来事で二年生でスキルを得てしまった。
そしてそこから俺の学校生活が歪み出した。
クラスメイトから嫌がらせを受けるようになったのだ。
あれは授業でダンジョンに潜っていた時のことだ。
「みろ、スクロールだ」
「すげー、初めてのスクロールドロップだ」
俺たちの班は、はじめてのダンジョンアタックで舞い上がっていた。そんなところにスクロールをドロップしたことでさらにテンションが上がってしまった。
「ほら、大和!」
「お前たち、はしゃぐな!」
付き添いの教師から叱咤の声が飛ぶ中、班のメンバーの1人、前橋が俺に向かってスクロールを投げた。
「こら!」
「え、あ、うわっと」
教師の怒声に驚いたことと、不意に投げられたことでスクロールを俺は受け止め損ね、お手玉のように両手の中で数回跳ねさせてから、かろうじて端っこをつかんだ。
ぱらり……
投げたり、お手玉したりがよくなかったのか、掴んだ場所が悪かったのか。
スクロールは解けてしまった。
「「「「「あ…」」」」」
淡く光ったスクロールはそのまま光の粒子と化し消える。
スクロールは一度開けると、開けたものにスキルを与え消失する。
「あ~~~っ」
「何やってんだ、大和」
「おまっ、バカ!」
「うそだろ!」
学生は勝手にスクロールを開くことを禁止されている。
探索中に得たものは全て学校側に提出、後日提出したものに見合ったポイントが付与される。
このポイントは学内の食堂や購買部で使える電子マネーのようなものだ。
一般では協会が買い取りをして現金を得るのだがここは学校。
購買部ではダンジョン内で使用するアイテムなどを販売しているのでポイントはいつも不足しがちだ。
それ以前に特に未鑑定のスクロールはどんな《スキル》かわからず危険でもあるからだ。
取得できるスキル数は無制限ではない。強くなることでその上限は増加することはわかってはいるが、特に最初は慎重に選ばなければならない。
3年になればスキル構成の授業でスクロールの配布はある。
それまでは勝手にスキルを増やしてはならないと校則で決められているのだ。
このことは教師も見ていたこともあり不可抗力とされたが、罰として1ヶ月の職員便所の掃除を言いつけられた。
最初は投げた前橋が悪い、受け損ねた俺が悪い、はしゃぎすぎた皆が悪い、と言いあっていたのだが2週間がすぎた頃からおかしくなった。
「なあ、俺らなんで便所掃除やんなきゃいけないんだ」
「そーだよな」
「スキルゲットしたのは大和だけだし」
「そーだよな、俺たち損してるだけだよな」
徐々に4人の態度は悪くなって、3週目には俺一人で掃除をする羽目になっていた。
班の雰囲気も悪くなり、俺は会話に入れなくなっていった。
クラスメイトも、スキルを得た俺に冷たくなっていった。
やがてそれは授業にも影響を出し始めた。班の4人は、ダンジョンアタックの授業で示し合わせて俺にモンスターのトドメを刺させないようにしだした。
「お前たち、鹿納にもちゃんと戦闘に参加させろ」
「えー、だって大和弱いし」
「時間かかるんだよなぁ」
「灯り係が動くと視界が悪くなるし」
「そうそう、せっかく手に入れたスキルなんだから使わねーと」
俺が手に入れたスキルはランクノーマルの〈灯〉だ。
ランタンや懐中電灯よりも光量があり、ちらつきも少ない。
本来取得できないはずのスキルを取得してしまった俺に、スキルを使わせないようにするのが筋ではないだろうか。
「灯りで照らせ」と言い出した班のリーダーである前橋に、教師は注意することなく黙認した。
以降俺は班の〝灯り係〟となり、ほぼ戦闘に参加できなくなった。
そんな状態では俺はレベルアップなぞ望めず、進級試験ではギリギリの最下位通過となり、二年生が終わった。
ダンジョンに入れるのは十六歳。高専では全員十六歳になっている二年生の新学期に二級免許を習得する。
十六歳で取得できる〝ライトパス〟と呼ばれる二級免許では、協会の指定する指導員が同伴で決められた制覇済みダンジョンにしか入れない。
十八歳で取れる一級免許ではどこのダンジョンでも入れるようになる。
申請および試験は十八歳の誕生日の2週間前から受けることができ、合格すれば誕生日以降に免許を受け取ることができる。
高専は全国で五校しかなく、俺は実家を離れ寮生活をしていた。
四月二日が誕生日の俺は春休み中に試験を受け、無事免許証を得てから実家に帰った。
「ただいま〜」
「おかえり、お兄ちゃん。免許証見せて見せて」
「ひな! お兄ちゃん帰ってきたばかりなんだから休ませてあげなさい。おかえり大和」
俺を迎えに玄関までやってきた妹のひなは、今日探索者免許証を受け取ってから帰ってくることを知っていたので、見せろとせがんできた。
そこに母さんがやってきて俺のボストンバッグを受け取りつつ、ひなを諌める。
「ご飯できてるから、手を洗ったらいらっしゃいね」
お袋はボストンバッグを持ったまま洗濯機へ直行した。そんなに洗濯物貯めてないぞ。
ダイニングへ行くと親父と爺ちゃん婆ちゃんも揃っていた。
「みんな仕事は?」
「畑は午前中に済ました」
「大和の誕生日なんだから」
見ればテーブルの上にはホールケーキに1と8の形のの蝋燭が立っていた。
「「「「「お誕生日、そして免許合格おめでとう」」」」」
パンパンとクラッカーが鳴らされ、紙テープが舞い飛ぶ。
「ガキじゃないんだよ」
そう言いつつも、居心地の悪い学校生活から暖かな家族に囲まれる場所にきて、思わず目から汗が滲んだ。
「おはよ、ひな」
「おそよう、お兄ちゃんもう直ぐお昼だよ」
リビングでテレビを見ていたひなの頭をこつく。
「母さんたちは?」
「お父さんとお母さんは、お兄ちゃんに食べさせるって裏山に筍取りに行った。お爺ちゃんは道の駅に納品、お婆ちゃんは台所だよ」
「おお、お昼は掘り立て筍の炙り焼きかな」
洗面所で顔を洗っていると玄関の方が騒がしい。タオルを肩にかけ玄関に向かう。
「母さん? ひな?」
「た、大変、大和、お父さんが」
母さんが右腕にできた大きな擦り傷を抑えるようにして、玄関にしゃがみ込んでいた。そこに救急箱を持って婆ちゃんがくる。
手当てをしながら事情を聞いた。
竹林で筍を取った帰り、竹林の崖下のところに大きな穴が空いていた。
つい先日までなかった穴を不審に思い、父さんと二人で中をのぞいたそうだ。
「穴……それってもしかして」
二十メートルほど進むと突然何かが飛びかかってきて、父さんは持っていた鍬ではたき落したところ、霞になって消えたそうだ。
「これ、ダンジョンじゃあないか。戻ろう」
父さんがそう言って戻ろうとした途端、足元が崩れてお父さんが落ちてしまい、どうにもできず慌てて戻ってきたそうだ。
母さんは慌てたせいで玄関前ですっ転んだだけらしい。
「け、警察、消防に助けを、いや探索者協会に電話……」
「そんなの間に合わない、俺が行く。何か武器になるものは……」
ひなが母さんが腰に下げていた鉈を指差す。
「にいちゃん鉈、母さんの腰にさしてる」
その言葉に母さんがベルトに挿していた鉈をとって俺に渡す。すると次にばあちゃんが台所から何か持ってきた。
「これ、爺さんの刺身包丁だよ」
その刺身包丁は爺ちゃんの大事なやつ。刃渡り28センチもあるなんか有名な人に作ってもらった〝名入り〟の包丁だ。
「倉庫にロープあったよな」
俺は爺さんの包丁にタオルを巻いて腰に差し、靴をはきながら母さんに確認をとった。
「ああ、置いてある。場所、場所はわかる? 入ってすぐ右の棚よ」
「大丈夫」
それだけ聞いて俺は駆け出した。
倉庫でロープを掴み、カラビナをいくつかベルトに引っ掛けロープを吊るす。梱包用のガムテープや野菜を束ねるのに使っていたビニールテープなどもカラビナに引っかけ腰にぶら下げて倉庫を出ると、ひなが走ってきた。
「お兄ちゃん! これ救急セットとタオルとお水」
父さんが怪我をしていた場合に備え、傷口を洗う水やタオル、車を購入した時にディーラーがサービスにくれた救急セットをリュックに詰めたものを渡してきた。
「サンキュー、ひな」
「うん」
竹林に向かって走り出すと、ひなもついてきた。
「おい、家に戻ってろ」
「私もいく、中には入らないから、前で待ってるから……」
親父が心配なのはひなも同じだ。
「お前は免許がないから、絶対中に入るなよ」
「うん、わかってる。お兄ちゃんお父さんのこと……」
「おう! 任せろ。行ってくる」
竹林は家のある土地より三メートルほど高い。ひい爺ちゃんが竹林が家の方に広がらないようになだらかな斜頸だった土地を掘り下げて石垣をこしらえたそうだ。
そこに不自然に高さ1.5メートルほどの洞窟が出来上がっていた。
頭を屈め中に入ると一メートルほどは石垣っぽいがそれ以上先は土ではなく鍾乳洞の石灰岩のようなどこかつるりとした感触だ。
「やっぱり竹林の下のこの位置でこの壁質、ダンジョンで間違いないな」
十メートルほど緩やかに下に下る坂になっていた。外の明かりが届かず、奥は真っ暗だが俺には問題ない。
「ライト」
頭上に光球が現れ辺りを照らす。スキルが使えるし間違いない。
更に進むと下に続く階段があった。母さんが「足元が崩れて父さんが落ちた」と言っていたので落とし穴かトラップかと思っていたが。
「父さん!」
階段の下に気を失った父さんが倒れていた。
怪我をしていないか、頭をぶつけていないか触りながら出血の跡を探すがそれはないようだ。
「父さん、父さん」
「う、あ……大和か」
父さんはゆっくりと上半身を持ち上げた。よかった自分で起き上がれるということはとりあえず大きな怪我はないと思う。だが頭の怪我は見た目でわからないから医者に連れて行かないと。
「いてて、足元に階段があったとは。転がり落ちて気を失うとは情けない」
ゆっくりと立ち上がり、肩を回し動きを確かめる父さんの後ろに動くものを捉えた。
とっさに爺ちゃんの刺身包丁を手に、前に飛び出す。
「大和?」
「チッ!」
「ピギャーッ」
気合を込めて刺身包丁を振り払うと、飛びかかってきた〝ラビット〟の首に上手くあたり、振り抜く勢いにそのまま壁まで吹っ飛んでいった。
壁に叩きつけられ、落ちたラビットに止めを刺すと、ラビットは黒い粒子になって消え、そこにはスクロールが残った。
「え、スクロールドロップした?」
ラビットはウサギに似たモンスターで大きさは中型犬ほどある。耳が長いのでラビットと呼ばれているが、どちらかというと猫系のモンスターなのだ。
「やっぱりダンジョンか。すぐに出ないとやばいな。大和、どうも足をくじいたようだ。肩かしてくれ」
俺はスクロールをリュックにしまい、親父に肩を貸して外に出た。
出来たばかりのダンジョン形成に巻き込まれただけで、トラップにかかったわけじゃないようで少し安心した。
母さんのいいようでは落とし穴に落ちたように感じたんだ。
「父さん、お兄ちゃん」
ひなが出口で待っていた。俺とは反対の親父の手をとり、同じように肩を貸そうとするが身長差のせいであまり役に立っていない。
「とりあえず病院へ行こう。頭を打ってるからちゃんと調べないと」
倉庫を回ったところで爺ちゃんの軽バンが入ってきた。と、同時に母さんと婆ちゃんが玄関から出てきた。
「あなた」
「悠介」
「なんだ、どうした?」
俺たちの様子を見て爺ちゃんが車の窓を開け、俺たちに聞いてきた。
ワーワー騒ぎながらも両親と祖父母はそのまま軽バンに乗って病院に向かった。
「父さんは念の為様子見で入院するけど、明日には退院できると思うわ」
母さんは腕に巻かれた包帯を撫でながらそういった。
爺ちゃんが、真剣な顔を俺に向ける。
「結局、あれはダンジョンで間違い無いのか? 大和」
「ああ」
「じゃあ警察に、あれ? 協会だったっけ? 知らせないと」
「そのことだけど、ちょっとだけ待ってくれないかな」
食卓についていた全員と台所から顔を出した婆ちゃんが俺を見た。
俺は学校での現状、いじめとそれによって進級が危ぶまれるほどの羽目に追いやられたことを告白した。
いじめられている事については家族に言いたくなかったが、ここは事情を話し協力を求める。
「ひどい、先生まで」
ひなは自分も来年受験したいと思っているのに、そんな先生がいるなんてと、ショックを受けていた。
「けれど勝手にダンジョンに入っていいの?」
「免許はあるからそこは問題ない」
爺ちゃんが俺の目をじっとみる。
「……春休みの間だけだ」
「あんた」
「お義父さん!」
爺ちゃんは家族を見回した。
「たった1週間ほどのことだ。今日筍取りに行かなかったら、ダンジョン自体気がついとらんかったはずじゃ」
「それはそうだけど……」
「大和はダンジョンでやって行くために今の学校を選んだ。だったら卒業できるように家族が協力してやらんとな」
爺ちゃんはニッと笑う。
「そのクラスメートと教師を見返してやれ。どうせ春休み中どこかのダンジョンに行くつもりだったんだろ」
「爺ちゃん」
「ただし、無事に戻ってくること。時間は朝から晩まで、夜はみんなで夕食をとれるように戻ってこい」
「ありがとう、爺ちゃん」
そして俺は翌日から裏山ダンジョンに挑戦した。
出来たばかりのそのダンジョンはレベル1の初級ダンジョンで全10層の洞窟型だった。
出来立てダンジョンはドロップ率が高い。
ラビットからドロップしたスクロールは《アイテム鑑定II》だった。おかげでドロップしたアイテムが判別でき、習得するスキルを選別することができた。
そして四日目には10層のボス、牛ほどのサイズの白虎を倒した。
そこにはスクロールと拳ほどの魔石が残った。
ボス部屋の入り口の対面の壁がゴゴゴと音を立てて開いて行く。
奥に部屋があるようだ。
ボス部屋の奥にはコアルームがある。そのコアに触れることでダンジョン制覇完了となる。
「えっと、制覇するとダンジョンを存続か消滅かを選べるんだったな。敷地内にダンジョンがあるのって、協会やらなんやらがうるさいし、消滅でいいんじゃないか」
俺は目の前にある黒いボーリングの球のようなコアに手を置いた。
『初級ダンジョン、モフィ=リータイが単独制覇されました。制覇者は次の選択肢から選んでください』
どこからともなく声が聞こえた。
『一つ、存続を選択。ダンジョンは現階層数を維持し、以降成長することはありません』
『一つ、消失を選択。このダンジョンは消失します』
『一つ────
あれ、選択肢が存続と消失以外にもあるのか? そんなの習ってないぞ。
『────運営を選択。ダンジョンマスターとなり、このダンジョンの主としてダンジョンを運営します』
「はあ? 運営? ダンジョンマスター? なんだそれ!」
『選択を確認しました。私はモフィ=リータイのダンジョンコア。以後よろしく』
「……え、あ、俺選んじゃった? エエェぇ? どうしよう……」
俺、ここのダンジョンマスターになっちゃったよ。
【短編版】学校に内緒でダンジョンマスターになりました。Ⅰ 琳太 @Rinta-ha-Rinda
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