その十六【放課後デート①】
放課後のことを考えて悶々としていると、いつの間にかその時間になっていた。
ただその時間は、一瞬にも、そして一生分にも感じられたような気がする。
……なんだか、まるでバードキスみたいな感覚だな。
そう思うと、柄にもなく、またも顔が熱くなってしまう。
ハグを体験してから、少しこの現象が多くなってきた気がする。
まあ、別に嫌なことではなく、寧ろ幸せを感じるからいいのだけど。
「しゅーくんっ」
──放課後デート♪放課後デート♪
一人勝手にそんなことを考えながら荷物をまとめていたら、機嫌よさげな声色で
同時に脳内へと響く言葉を認識し、自然に頬が緩む。自分と同じことを楽しみにしていてくれて、嬉しさが込み上げてくる。
「すぐにまとめるから、少し待っていてくれ」
「うんっ」
振り向いて断ると、元気に返事をしてくれる瑞希に少し感慨深く思いつつ、俺は再度荷物をまとめ始める。
あまり待たせたくはないため、少しばかりスピードをはやめながら。
ざわざわ……
……ただ少し、そんな瑞希の様子にざわめきだす同級生たちが気掛かりだった。
学校で広がってから少し経つのだけど、まだまだ馴染まれていないらしい。居心地が悪いため、勘弁してほしいものだ。
特に、目の前の席からニヤニヤと見つめてくるクラス屈指のバカップルのものは。
「……おまたせ。じゃあ、いこうか」
荷物をまとめ終えたため、俺はバッグを持って瑞希に呼びかける。
すると瑞希は、元気よく頷いてるんるんと先に行き、俺は苦笑しながらその後ろを追いかけたのだった。
□
家から反対方向へと二人で歩き、俺と瑞希は駅近くのショッピングモールへと訪れていた。
この間の映画デートの時にも来たところであり、制服が同じ少年少女も多々見受けられる。
映画デートの時には目がいかなかった彼らも、今は男女で仲睦まじくしている様子。
それを自分たちに当てはめた俺は、無意識のうちに瑞希の手を強く握った。
「あっ……」
──手……
「! 急に悪い。痛かったか?」
ただ、それによって瑞希がなにやら反応したため、俺は振り向いて瑞希の様子を伺った。
だけど、瑞希は俺の方に視線を向けてきていて、痛みに関したものではなさそうであった。
「そうじゃないんだけど……ちょっと、いいかな?」
すると、瑞希が突然尋ねてきて、脳内に用件と予想できることが響いてくる。
俺は少し目を見開きながらも、こくりと頷いて強く握った手を緩めた。
「ん……」
瑞希は俺の首肯に小さく相槌を打って、その用件を実行してくる。
緩まった俺の手の上で指を滑らせて、それを谷になっている部分にひとつひとつ絡ませていく。
それからぎゅっと握ってきたため、俺もそれをしかえした。俗にいう、恋人繋ぎの完成である。
俺たちは幼馴染カップルというものではあったけど、手のつなぎ方は普通のものであった。
復縁して親交は深めなおしたとはいえ、暗黙の中でそれが当たり前になっていたのだ。
ただ改めて恋人繋ぎを実行した今の状況を見ると、すごいな、という感想が出てくる。
心地よい圧迫感が強くなっただけでなく、包まれる範囲がわずかだが増えていた。
総合的に、手だけでより瑞希を強く感じ、瑞希の温もりがより深まったような気がする。
……なんだか、またも顔が熱くなってきたような。
自分の様子が気掛かりになりつつ、俺は瑞希の反応を見ようと横目で見てみる。
「………」
──ハグ程ではないけど、これもしゅーくんを強く感じちゃう……
ハグを思い出しているのか、今の状況によるものか。
顔を真っ赤にしていながら手をぎゅっと握ってくる彼女に、俺は熱い顔のまま頬を緩ませたのだった。
俺は、何故か疎遠になった幼馴染の心が読める さーど @ThreeThird
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