地球は電子レンジで加熱できません。

ちびまるフォイ

地球、あたためはじめました

ピッピッピッ。


なにか操作するような音が聞こえたかと思うと、

世界は一瞬にして真っ暗になった。


と思ったら、今度はオレンジ色の光に包まれた。


「わぁ、きれいな夕焼けだなぁ」

「何言ってるんだい。あれは朝焼けだよ」


などと笑って済ませられたのは寝ぼけていた数人。

時差も関係なく地球全体がオレンジ色の光に包まれていた。


「なんか……気持ち悪くなってきた……」


地球に住む人達は胸を抑えて倒れ始める。

体は冷たいのに、体の内側からこみあげる熱い吐き気。


海はぼこぼこと泡立ち始め、海面には魚が大量に浮かんでいる。

ペットボトルが膨張し、あらゆる場所で火事が止まらない。


異常気象という便利な言葉で片付けられるレベルではなかった。


『地球のみなさん聞いてください!

 今、この地球は温められています!!』


昼も夜もお構いなしに照りつづけるオレンジの光が、

電子レンジに使われるマイクロ波であるという分析結果が出た。


地球に暮らす人々は逃げるように家の中に駆け込んだ。

多少はマシになれど、たいして結果はかわらない。


内臓が膨張して血を吐きながら倒れたり、爆裂して動物がそこかしこで倒れ始める。

電化製品はスパークして使い物にならなくなり情報が途絶える。


「あんた、なにしてるんだ!?」


「見りゃわかるだろ! アルミホイルを体に巻いてるんだよ!

 アルミホイルはマイクロ波を反射するんだ!」


情報の正しさを確かめられるような余裕もすでに残されていなかった。

そこかしこでアルミホイルです巻きにされた銀人間が誕生する。


「家も有るもホイルで覆うんだ!」

「町全体にアルミホイルでカバーしよう!」


オレンジ色の殺人光線をなんとか防ごうと人間たちはやっきになっていた。

一定の効果はあったが同時に周りに大きな被害を与えた。


バチバチと体に巻いたアルミから音がして人体発火する現象が相次ぐ。


「やっぱり悪魔だ! 悪魔が人間を贖罪の炎で焼き尽くそうとしてるんだ!」


恐怖に怯えた人間はアルミを脱ぎ捨て外に出る。

アルミホイルで乱反射されたいくつものマイクロ波が人体に突き刺さる。

飛び出した人間は体の内側で爆発し液状になった臓器を口から吐きながら死んだ。


「おいこれ逆効果なんじゃないか!?

 かえって乱反射で電子レンジの光が強まってるぞ!?」


「じゃあ脱げっていうのかよ!?」


反射し続けたマイクロ波はアルミを焼き切り人体を燃やす。

脱いでしまえば今度は体の内側から沸騰させられる。


八方塞がりの地獄のなか、一部の富裕層は緊急脱出用のロケットを準備していた。


「はやくしろ! まだ出発できないのか!?」


「社長、まだ荷物が運びきれていないんですよ!」


「もたもたしていたらこのロケットの存在に気づかれる!

 卑しい平民どもが宇宙に逃げようとたかってくるに違いない!」


「社長!? なにを!?」


「緊急発射だ! すべての食料がなくっても、

 これだけあれば宇宙空間で1周間は生活できる!

 1週間後にまた地球へ戻れば良い!」


ロケットはカウントダウンもせずに緊急発射した。

人々が脱出用ロケットの存在を知ったのは、空に伸びる白煙を見てからだった。


「自分さえ助かればいいのかよ!」

「このひとでなし! 化けて出てやる!」

「俺も乗せてくれ! おいていかないでくれーー!」


みるみる小さくなる人間の姿はロケットの内側からも見えた。


「ふん、誰が乗せるものか。人の上にたつべき人間だけが生き残れば……ん?」


オレンジ色の空を突き抜け進むロケットの進行方向には暗闇が待っていた。

宇宙のような神秘的なものではない。


「うわ……うわぁぁーー!! 壁だーー!!」


ロケットは黒い壁に衝突し、そのまま爆発した。

電子レンジ内側の壁にぶつかった衝撃でがちゃんと音がした。


地球を包んでいたオレンジ色の光線はピタリをやんで、一転して暗闇に包まれた。


「た、助かった……?」


ボコボコいっていた海面も収まり、アルミホイルを脱いでも平気になった。


「やったーー! 助かったぞーー!!」


地球を発射するロケットを見たときは、思う存分に罵っていた人たちだったが

レンジのドアをこじ開け加熱を止めた英雄として今度は褒め称えた。

人々は感謝と祝福の宴で盛り上がった。





それからしばらくして。


「あれ? チンの音しないと思ったら、ドア少し開いてるじゃん」


レンジのドアを開け、中の地球を取り出した。

中途半端に加熱されて放置されたことで地球はカピカピに固まっている。


すでにどこにも生物など生きていなかった。

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