3 アナザー
ほとんど毎日のように、登下校が一緒になる二人の男女。
時折耳に届く会話の内容から察するに、二人は幼馴染みのような間柄なのだろうと思っていた。もしかしたら付き合っているのかもしれない。
一人はクラスメイトの少年で、名前は
わたしは別に、二人とは特に親しくはなかったが、毎日のように顔をあわせるものだから、勝手に親近感を覚えていた。
だから――仲条くんが校舎の屋上から飛び降りたという噂には驚いたし、春前さんが後を追うように交通事故に遭ったと知った時には、もしかして二人のあいだに何かがあったのではないかと思った。
痴情のもつれ、というやつである。
二人が前を歩いてない朝、放課後……それが数日続く。わたしはもしかすると自分だけが知るかもしれない真実を誰かに話すべきか、ずっと一人で逡巡していた。
仲条くんはもしかすると、春前さんに突き落とされたのではないか。
なぜならその日の朝、仲条くんは誰かに「告白する」と――放課後、屋上に誰かを呼び出すと、そんなことを春前さんに打ち明けていたからだ。
これは、事件なのではないか――わたしだけが知る……恐ろしい事実……。
そんなわたしの葛藤が少しだけ軽くなったのは、転落したという仲条くんが無事、意識を取り戻したという噂を聞いたからだ。
しかし――
彼の隣を歩いている、あの女の子は、誰……?
■
仲条くんが一人で帰宅する――その絶好の機会に、わたしは全てを打ち明けようと思った。
彼はきっと戸惑うだろう。記憶喪失だからなおさらだ。
正直、真相は分からない。わたしは所詮他人、第三者。たまたまいろんなことを目撃していただけ。
事実を調べるのは彼の役割で、彼にしか出来ない。その結果をわたしが知ることがあるのかどうか。
どうなるにしても、とりあえずわたしの肩の荷は下りるだろう。この数日ずっと抱えていた心の荷物。早く全てを、わたしの知っている全てを彼に打ち明けて楽になりたい――
でも、どうやって声をかけよう――横断歩道前で立ち止まった時を狙おうと思ったのだが、彼の方が一足早く渡ってしまい、わたしは信号に足止めされる。まだ急げば間に合いそうだが、交通事故に遭った春前さんのことが頭をよぎり、信号無視は躊躇われた。
早く家に帰って一息つきたい。今夜こそはぐっすり眠りたい。ゆっくりと車の行き交う車道、その向こうに遠ざかる仲条くんの背中。わたしの心はいつになく逸り、その場で意味もなく足踏みする。
一歩、
「……?」
ふと、気付く。
足音が一つ多く聞こえた気がして視線を落とすと、わたしの影が不自然に長く、大きく伸びていた。
まるでそこにもう一つ、誰かの影が重なっているかのように――
「私の邪魔、するからだよ……?」
恋に落ちる 人生 @hitoiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます