第225話 最終話 天下を取ったのは?

 今までお読みいただきありがとうございました。あとがきまでお読みくださいませ。




 勝頼は秀吉を見つけた。子供を連れている、あれが秀頼か。近づくと秀吉が振り返り鉄砲を撃ってきた。リボルバーだ。流石にこの距離でハンドガンは当たらない。


「秀吉、覚悟を決めたらどうだ。もうお前の味方はいないぞ」


「貴様は何者だ、勝頼。俺が、この豊臣秀吉が天下を治めるのではないのか。藤吉郎に生まれ変わって散々苦労をして豊臣秀吉になった。俺こそが天下人だ。豊臣を滅ぼす徳川家康のいないこの世界で俺は豊臣の長期政権を作るはずだったんだ。それを貴様がぶち壊した」


「そうだな。確かに俺がお前の夢をぶち壊した。俺もお前も転生者として天下を取ろうとした。そして勝ったのが俺だった」


「貴様がこの時代にもたらした物。あれはこの時代にあってはならぬ物だ。お前が死んだ後、日本はどうなる?未来の日本にどう責任を取るつもりだ?貴様があんな物を作らなければ、俺の時代だったんだ」


「それについてはお前の言う通りだ。たまたま俺には知識があった。だがな、俺1人の力じゃあないんだ、俺には素晴らしい仲間がいた。その仲間達がいたからここまで来れたんだ。それと、科学兵器についてはちゃんと考えてるよ、ちょっと時代を先取りしすぎたからな」


「くそ、くそ、貴様が、貴様さえいなければ」


 秀吉は銃を乱射した。そして弾が無くなりその場にしゃがみ込んだ。秀吉は天を見上げ、呆けた顔をしている。そして近づいてくる勝頼に気付き我に帰ると、


「秀頼を頼む。命だけは助けてやってくれ、頼む」


 と小さな声で頼んだ。勝頼は迷った。流石に子供の目の前で首は跳ねれない。といって子供を殺すのもちょっとなあ。そこに服部半蔵が現れた。


「いいところにくるなあ。さすが半蔵だ。悪いがこの子供を連れて行ってくれ、秀頼だ」


 半蔵は秀頼を連れて城の方へ向かっていった。姿が見えなくなってから秀吉の首をはねた。戦が終わった瞬間だった。



 やっと終わったんだよな。天下か、信長、秀吉、そして勝頼。最後まで生き残った者が勝者だ。勝頼は地面に転がっている秀吉の首を見て話しかけた。


 俺とお前の違いは仲間の差なんだよ。俺は仲間に恵まれたんだ。友と自慢できる仲間に。勝頼は空を見上げて呟いた。






 戦が終わり一年がすぎた。捕らえられた前田利家は切腹、加賀は前田慶次郎に与えられた。慶次郎は別れた家族とともに加賀へ移り住んだ。桃は伊那忍びを解散し、加賀にいる。慶次郎のお妾さんである。もういい歳のじじいのくせに頑張るなあ。


 石田三成は、秀頼の後見人として三島を与えられた。江戸と駿府の間で見張られているようなものだが。秀頼は豊臣の名を捨てさせ藤原を名乗らせた。勝頼の恩情だった。


 細川忠興は戦で死んだが、妻の細川ガラシャは子供達を連れて四国の長宗我部に預けられた。明智光秀の娘という事で長宗我部は喜んで引き受けた。明智の名を残すべきではと長宗我部は訴えたが勝頼は細川の名を残すように命じた。将来この子孫が前世のように総理大臣になるかどうかは知ったことではない。


 島左近は、頭を丸めさせ新しく作る東照宮を守らせる事にした。勝頼は死後、東照権現かつよりんZという神として祀られる事になっている。誰が決めたんだこの名前?


 山上道及には佐野、足利、壬生が与えられた。勝手知ったる関東の土地を。ここには紫乃が移り住んでいる。まあ、押し掛け女房だ。


 勝頼の子供達はそれぞれ大名として君臨し、譜代が各地を治め、勝頼に味方した大名は加増され、領地替えになった。そして柳生五郎右衛門は井伊直政の勧めで剣術の将軍家指南役となり柳生新陰流は歴史に名を残した。勝頼と手合わせして負けた時には自害しそうだったが。


 勝頼は大阪城決戦が終わってすぐに、大阪城を各種兵器とともに焼き払った。また、戦艦、大型輸送船も伝説龍王ゴーリーの残骸とともに駿河湾深くに沈めさせた。敵の技術屋である右近は国友村の情報を吸い上げた後、首を斬られた。技術部、工作部、製造部の設計図は全て焼却処分にし、各部の要員は、川根の奥で死ぬまで楽しく生活をしてもらうことにした。労をねぎらう為に酒池肉林温泉付きで。秀吉の言う通り、勝頼のもたらした技術はこの時代にはあってはならないものだ。勝頼は鎖国を指示し、技術を戦国並みに戻す事に注力した。


 沙沙貴彩は尾張にいた。治療が上手くいき生き残ったが、体力が元に戻ったわけではない。勝頼は彩を許した。もう戦は終わった、余生をどう過ごすかは自分で決めろと言い放して。桃はあれから彩には一度も会っていない。一生会わないと決めたようだ。彩は勝頼が立てた信忠の墓の近くに住んでいる。死ぬまで墓守をするようだ。織田家は三法師が継ぎ、美濃を治めている。お松は信忠の死後、尼さんになり戦争孤児を集め育てている。


 勝頼は旧徳川家臣との約束通り、下野の世良田に徳川家を復興した。松平氏の生き残りに徳川を名乗らせて。


 紅はあずみの跡を継ぎ武田商店の店長になった。黄与は玉井伊織とくっついてシャムに移り住んだ。


 高城兄弟とお幸は高遠に戻り、助さん、格さんのお墓近くに住んだ。


 そしてお市はあのまま熱が下がらず還らぬ人となった。かなり無理をしていたのだろう。勝頼は諏訪原城の近くに墓を建てた。






 ある日勝頼は春日大社に来ていた。あの時未来の俺は何を斬ったのか?転生の理由はついにわからなかったがこんな事が出来るのは神と名の付く者だけだろう。


「神様。何がどうしてなのか、結局わかりませんでしたが自分に出来ることはこれだけです」


 そう言って大量の金を寄進した。当然諏訪大社にもだ。勝頼は神社への寄進を惜しまなかった。そして駿府城をお市の子、信心に明け渡し諏訪原城に住んだ。勝頼は勝頼日記という書物を残し、歴史を偽って記録に残した。科学兵器は歴史から抹消されたのである。そして大阪大戦から15年後、ついに勝頼の寿命が尽きた。武田幕府はその後約300年続いた。明治維新が来るまで。






 遠くで女性の声がする気がする。いや遠くないな、すぐそこで俺を呼んでいるようだ。


「美濃流くん、美濃流くん、起きて、美濃流くん」


「あれ、ここは?」


 目覚めると目の前にお市、いや山内恵がいた。どうやらここは諏訪原城跡のようだ。恵が喋りだす。


「やっぱり帰ってきたのね。この15年間ずーっと待っていたの。私は戦国で死んだ後気づいたらなぜかここにいたのよ。私が戻ったのなら美濃流くんも戻ってくるんじゃないかと、この近所で喫茶店を開いて毎日ここに来ていたの。歴史では私が死んでから15年後に武田勝頼が死んだ事になっていたからぼちぼちかと思ってたのよ」


「てことはまさか秀吉も?」


「それはわからないわ。この時代の人なんだろうけど、どこの誰かは知らないし。とりあえずお店に来て!自慢のコーヒー飲んで欲しいの。それにあなたの部屋も用意してあるのよ」


 嬉しそうに案内するお市こと恵だった。なんで戻れたのか?この謎は解けそうもないな。喫茶店は諏訪原城の目の前にあった。コーヒーのいい匂いがする、コーヒーなんて何年ぶりだろう。喫茶店には新聞が置いてあった。


『細川総理退任、後任に藤原登』


 ふーん、どっかで聞いた名字だな。そうだ、俺が死んだ後どうなったんだろう?気になって恵にスマホを借りてブブッてみた。ブーブル君はこの世界でも優秀なようだ。


『武田幕府: 武田勝頼が征夷大将軍となり幕府を開いた。ところが豊臣秀吉が関白として西国を治めた為、東西で政治が別れた。そして争いとなり大阪大戦と呼ばれる東西対決が起きて武田が制し日ノ本を統一した。その後約300年に渡り日ノ本の政治を行った』


『明治維新: 旧態依然の政治では、忍び寄る海外勢に対抗できないと未来を考える若者が各地で挙兵した。そのリーダーが豊臣秀頼の子孫である藤原辰巳で、初代総理大臣を務めた。豊臣に勝って幕府を開いた武田家にとどめを刺したのが豊臣という日本の歴史史上最大の敵討ちとも言われている』


 な、何だって!!!美濃流は大声で笑いだした。そうか、そうなるのか、と。美濃流、いや勝頼の笑い声がいつまでも続いていた。



 完


 <あとがき>


 実は勝頼の旅は続きます。 『ドジっ娘女神を救え 固有スキル勇者の影??』天下を取った転生勝頼が今度は異世界へ! の連載を始めました。こちらも応援していただけますと作者喜びます。


 ここまでお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。


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歴史オタが武田勝頼になったら天下が取れるのか? Kくぼ @kkubo2020

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