第224話 勝頼と小太郎  桃と彩

 小太郎は再び苦無を投げた。勝頼はそれを避け、再びベストを起動させる。今度は背後に鎖の網が飛び戻ってきた苦無を絡めていた。今度こそブーメランで帰ってくると読んでいたのだ。勝頼は背後の苦無を気にせず小太郎へ斬りかかる、小太郎は慌ててバックステップで避け、地面に炸裂玉を投げつける。勝頼はそれをバク転で交わし、小刀を投げつける。小太郎はそれを避け放り投げていたリボルバーを拾おうとするがそれを勝頼が銃で弾き飛ばす。勝頼の銃口が小太郎を捕らえた。と、思ったら残像だった。


「まさか、これは?」


 勝頼はとっさにバックステップし、刀が来るであろうところで受けようとした。元いた位置を小太郎の忍び刀が通過して待ち受けていた勝頼の刀にあたった。ベストがだいぶ軽くなり動きがさらに軽やかになった勝頼には付け焼刃の陽炎は効果がなかった。


「小太郎、その技は?」


「よくぞ躱した。城にいた柳生に教わったのだ。奥義だというが届かぬか」


 あっぶねー、知らなかったら斬られてたよ。まさか陽炎を風魔が使うとは。ではこっちから。同じように勝頼の姿がぼやけた。


「な、なに!」


 小太郎は叫び土遁の術を使い砂埃を巻き上げた。勝頼の攻撃が一瞬緩み小太郎はギリギリかわすことができた。知っていたからこそ避けられた、というか柳生に教えてもらう時に何度か喰らっていたので小太郎もなんとか凌ぐことができたのだ。勝頼が柳生宗矩に陽炎を使わなかった理由がこれだ。宗矩ならカウンター取ってきそうだし。


「き、貴様〜、なぜ真似できる?」


 答える義理はない。勝頼は続けて斬りかかった。掟破りの逆陽炎、動揺は小太郎の方が大きかったようだ。ジリジリと追い詰められていく。そしてついに勝頼の刀が小太郎の刀を弾き飛ばした。その瞬間、小太郎の口から勝頼に向かって何かが飛んだ。勝頼はそれを慌てずに避けた。小太郎は歯を吹き矢のように飛ばしてきたのだ。続けて小太郎のベルトのようなものから手裏剣が飛び出した。勝頼の胸に当たったが防弾がわりの鉄板に当たっただけだった。勝頼は小太郎の首を斬り飛ばした。


 ふう、やっと倒した。お市が作ったこのベストが役に立った。何だかんだいってお市の作ったものに助けられている勝頼だった。いやー危なかった。さっきの歯を飛ばすやつって昔読んだマンガに出てきたやつだよな、マンガ読んでなかったらまともに食らってたよ。ふと見ると少し離れたところで寅松が申し訳なさそうにしている。本当は秀吉に使おうと思ってたんだけどな、飛行機ファンネル。まあ出番があっただけ良しとしよう。勝頼は気を取直して秀吉の方へ向かった。





 桃は秀吉が逃げる前方に光乃突刃叉ヒカリノツバサを向けた。空中で向きを変えて秀吉の方を見た。籠を担ぐ者が2人、秀吉、護衛が2人、それと沙沙貴彩がこっちを見ている。桃は大声で叫んだ。


「彩。お前に用がある。行くぞ」


 さっき高城達が秀吉の護衛を背後から襲ったのと同じ事を前方から行った。100mほど離れてから一気に加速し高さ1mくらいを水平飛行しバク宙で離脱した。光乃突刃叉ヒカリノツバサは護衛2人と籠持ちを斬り飛ばした。残るは秀吉、秀頼と彩だけだ。


 桃は走り出し彩に斬りかかった。彩は抵抗しなかった。桃は忍び刀を寸前で止めた。


「なに、何なのよあんたは。この裏切り者が。なんで抵抗しないの!」


 その時銃声がして桃は太ももを撃たれた。秀吉が秀頼の手を握りながら銃口を向けていた。


「余の護衛もそなただけになってしまった。行くぞ、その女は殺す」


 と言いながら秀頼の手を引いて歩き出し、桃を撃った。『バーン!』、桃は目をつぶった。あ、あれ?


 目を開けると沙沙貴彩が倒れている。桃をかばって撃たれたのだ。秀吉は唖然としたが、秀頼の手を取り歩き始めた。


 桃は足を引き摺りながら彩の元に行った。彩は左腹から出血していて咳き込んでいる。まだ死んではいないようだ。


「なんで私をかばった?何がしたいんだお前は!」


 桃は叫んだ。


「よ、よかった。無事ね」


 彩はそれだけ言って意識を失った。なんなんだ。なんでこうなった。桃はどうすべきか悩んだ。その時信忠の言葉が浮かんだ。

 確か電動台車デダイには薬箱がある。桃はとりあえず彩を助ける事にした。桃は合図の狼煙を上げた。




 勝頼は寅松と秀吉を追っていた。その時狼煙が上がった。怪我人の合図だった。


「あれは桃だな。というと怪我人は……、そういう事か。寅松、秀吉は逃げてるぞ。急げ」




 慶次郎の乗る電動台車デダイが桃のところへやってきた。


「猿はどこだ?」


「大御所が追ってます。それよりこいつを助けたいの。私をかばって秀吉に撃たれた」


「裏切り者に助けられる、か。桃殿も怪我をしているがそいつが先でいいな?」


 慶次郎はそう言って彩の着物を脱がした。腹に銃弾が残っている。そこに服部半蔵と高城もやってきて手術が始まった。といっても酒を吹きかけ刀で切って弾を出してという原始的なやつです。痛みにうめく彩を押さえつけ針と糸で縫った。そしてペニシリンもどきもどきこと万能薬とかつよりんZを飲ませた。慶次郎は桃に向かって言った。


「あとは運だ。生きたいと思うなら生き残るだろう。だがこいつは生きたいと思っているのか?」


「わかりません。ただ今は死なせたくはないです。慶次郎さん、私の足もお願いします」


 桃の足にも銃弾が残っていた。服部半蔵と高城は勝頼を追っていった。慶次郎は、あ、おいてかれたと思ったがまあいいかっと桃の治療を始めた。


いよいよ次話が最終話になります。

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