第223話 勝頼最終兵器

 空から降りてきたのは勝頼だった。背後は燃えている林、前からは勝頼と赤備え。秀吉は籠に乗った秀頼、沙沙貴彩とともに林の横を通り抜けるべく進んだ。本多正信と護衛を残して。いつのまにか風魔小太郎がこっちへ来いと手招きしていた。


 勝頼の横を赤備えに固めた山県隊が走り抜け秀吉の護衛兵とぶつかった。護衛の僧兵は前面に槍部隊、その後ろに刀部隊、その後ろに鉄砲隊、一番後ろに弓矢隊と統率よく分かれていて攻撃、防御を見事に分業している。槍部隊が足を止め、そこの脇を抜けて刀部隊が斬りつける。隙を見て鉄砲が襲う、弓は背後からひたすら撃ち続ける。さらにその後ろから風魔小太郎が手筒を使って手榴弾を飛ばしてくる。数に勝る山県隊がどんどん減っていく。前田慶次郎は山県昌景に向かって言った。


「あれは本願寺の僧兵ですな。織田の攻撃を長年しのいだ実力、見事な物です。このままではまずいのでは?」


 慶次郎は俺が出ようか?と言っている。そこに勝頼達が電動台車デダイに戻ってきた。状況を聞いて、


「いずれは弾切れになるがそれでは犠牲が大きい。連携が見事ならその連携を崩せばいい。さっき道及とすれ違ったぞ。あいつが何とかするだろう。慶次郎、俺は秀吉を追う。小太郎を頼む」


 と言っていつのまにか電動台車デダイの後ろに着陸していた小型飛空船に乗り込んだ。飛空船に乗り込んだのは勝頼、寅松、そして桃だった。




 その山上道及だが、弓矢隊を指揮し敵の鉄砲隊、弓矢隊を狙わせた。徐々にだが豊臣側の圧力が減っていく。そのタイミングで慶次郎、高城、紅、黄与、紫乃が戦線に加わった。山上道及も槍を持ち敵陣へ斬り込んだ。敵の僧兵も強い。手練れが揃っている。敵の鉄砲が道及を狙うが家来がかばった。道及が怒りに任せて鉄砲隊の真ん中に飛び込み槍を振り回す。さすがに無謀だった。道及を慕っている紫乃が道及を狙っている鉄砲隊を苦無で倒すが、数が違いすぎる。高城が射線に入り小手で銃弾を受け道及を庇う。ちょっとの差だった。偶然の連携が道及を救った。紅が鉄砲隊に炸裂玉を投げその隙を赤備えの兵が突き一気に雪崩れ込む。


 慶次郎と黄与は槍隊を殲滅し刀隊と争っている。いつのまにか服部半蔵、茜以下伊賀者も加わり武田軍が押し始めた。飛び道具の危険が無くなれば数の多い方が勝つ。その時道及の肩を銃弾が貫いた。続けて紫乃の左足も。


 銃を撃ったのは本多正信だった。両手にリボルバーを持っている。続けて高城を撃とうとしたが、高城は両腕を鉄のカーテンにして正信に突進した。正信は慌てて撃ったが鉄の小手に跳ね返されそのまま体当たりを受けて倒れた。そして首の骨を折られ即死した。慶次郎は風魔小太郎を探したが見つけられなかった。





 勝頼と寅松、桃は飛空船で秀吉を追った。上空から秀頼が乗っている籠が見えた。光乃突刃叉ヒカリノツバサは2機しかない。


「大御所。あそこには沙沙貴彩がいます。彩は私にやらせて下さい。信忠様の遺言で彩は私が……」


「信忠は彩を助けろと言ったのか?」


「はい、ですが私にはまだどうすべきかわかりません」


「迷ったら死ぬぞ。それでもいいのか?」


 桃は自分が彩を殺す事しか考えてこなかった。だが、あいつは私を殺す機会があったのにわざと逃したと思える。答えはわからない、わからないが向き合えば………。


「わかった。彩は桃に任せる。寅松、あれの用意だ。2人乗りで行くぞ」


「えっ、これ2人乗れるのですか?」


「降りるだけなら何とかなる。ほれ、行くぞ」


 勝頼達は空中に飛び出した。風魔小太郎は空を見ていた。




「来たな、勝頼。ここで決着をつけてやる。さっさと降りてこい」


 勝頼は空中から小太郎を見つけた。どうやら俺を待っているようだ。うーん、放っておいて秀吉と戦いたいとこなんだけどな、避けては通れないか。寅松に指示し、小太郎に向かって降下を始めた。桃はそのまま秀吉に向かった。




 勝頼は小太郎から100m離れたところに着地した。あんまり近いと狙われそうな気がして。それは正解だった。空中は有利のようで下から狙われたらひとたまりもないのだ。勝頼は寅松を背後に隠れさせ最期の秘密兵器を起動した。勝頼はそのまま小太郎に向かって歩いていく。


「勝頼、兄者の仇、今日こそ取らせてもらう」


 そう言って懐からリボルバーを出してきた。右手に拳銃、左手には苦無が3本。小太郎は不思議に思った。勝頼が無防備なのだ。これは何か仕掛けがあると、慎重になった。


『ブオーーン』


 かすかに音がする。何だ?その時小太郎の後ろから何かが襲いかかった。小太郎は反射的に地面に転がり難を避けた。それはそのまま勝頼と小太郎の間に浮いている。


「よく避けたな。さすがは風魔小太郎」


 浮いているのは大きさ10cmくらいの飛行機だった。勝頼は叫んだ。


「行け、 飛行機ファンネル!」


 さらに数機のミニ飛行機が小太郎を襲う。小太郎は避けながら勝頼に向かって発砲した。勝頼は小太郎の引き金を引く動作を見てお市の作ったベストを起動させた。勝頼のベストから蜘蛛の巣のように鉄の網が広がって銃弾を飲み込んだ。そしてそのまま鉄の網は小太郎を捕らえようとしている。小太郎は素早く網を避けながら今度は苦無を投げた。勝頼はそれを交わし小太郎へ斬りかかる。苦無は3本あったはずだ、ブーメランのように帰ってくると後ろにも気を巡らせていたが苦無が帰ってこない。おや、と思えば苦無は飛行機を操縦している寅松を攻撃していた。寅松はラジコン飛行機の操縦装置で両手が塞がっていたため、仕方なく操縦装置で苦無を受け止めた。飛行機ファンネルはそのまま墜落した。


「おおおおおおおお、苦労して作った飛行機ファンネルがああああ」

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