第222話 光乃突刃叉(ヒカリノツバサ)の正体

 電動台車デダイ 5台が横に並んで進む。山県昌景は電動台車デダイが突破された時のために馬防柵を立て、その後ろに盾を置いた。赤備えはその後ろに控えている。秀吉達は近づいてくる電動台車デダイに気づいた。


「もう来おったか。敵はどれだけいる?」


 秀吉が本多正信に聞いた。正信は、


「物見を出しますゆえしばしお待ちを。見える範囲ではあのおかしな車だけのようですが恐らく後ろに兵が控えておりましょう。城攻めに大半を裂いているはずなので数は多くはありますまい。先程の小太郎の話では山県昌景ではないかと思われます。しかし早いですな、もう少し進めると思いましたが」


 と思えばいつのまにか風魔小太郎の姿がない。正信は小太郎に物見を頼もうとしていたのだが、仕方なく別の者に頼んだ。右近は、


「あんなのわしの秀麟丸の敵ではないわ」


 と、物見の報告を待たずに出撃した。それを見た正信は右近をおいて移動を開始した。頑張って足止めしてくれよ、とにやけつつ。電動台車デダイの速度は時速10km程だ。秀麟丸の方が速い。右近は前面の盾を見て後側に回り込もうと電動台車デダイの横をすり抜けて反転した。その時後ろに控えている敵兵が見えた。情報通り赤備え、山県昌景隊のようだ。なーにが赤備えだ、このおかしな車を壊したあとはお前らの番だ。


 秀麟丸は電動台車デダイの背後をとった……つもりだった。ところが、盾がこちら側を向いている。どういう事だ?もう一度背後を取ろうと回り込もうとしながら電動台車デダイを見ると同じ位置にいながら回転して向きをかえているのが見えた。そう、電動台車デダイは、自在車を搭載していていた。頭のいい右近は仕組みはすぐにわかったが、そのアイデアに驚愕した。まあ、勝頼が前世で虚しい独身生活のお供に購入した自動お掃除機の真似をしただけなのだが。


 回り込んだあと、右近が驚いて動きを止めた隙に横一線に並んでいた電動台車の両側が回転しながら前に出てきて、秀麟丸は電動台車デダイにあっという間に囲まれてしまった。そう、秀麟丸を中心に電動台車デダイが円陣を組んでいる。


「こんなもの、蹴散らしてくれるわ」


 右近は全速力で正面の電動台車デダイに突っ込んだ。電動台車デダイは勢いに負けて押されていく。その時、側面にいた電動台車デダイの盾が外れ、ドリルミサイルが現れた。この電動台車デダイには桃が乗っている。


「最後の一発!ドゥ〜〜リルミサイル、発射!」


 桃は秀麟丸の下部を狙った。ドリルミサイルは秀麟丸の駆動部分を破壊した。それを見ていた服部半蔵達伊賀者はすぐさま足を止めた秀麟丸に取り付き、外からこじ開け右近を引きずりだした。右近は縛られ電動台車デダイに乗せられ尋問された。秀吉を追いながら。そう、この時動いている電動台車デダイは1台になっている。バッテリーが保ちそうもないので1台に集約した。ついでに秀麟丸のバッテリーも頂戴した。


「山県昌景である。名を聞かせてくれ」


「右近」


「お主が国友村の右近殿か?大御所が会いたがっておられた」


「勝頼が?さっきあったよ。城でだが」


「ほう、それは何より。それで秀吉はどこに向かっておる?」


「知らん。わしも置いてきぼりを食らったのだ。知る訳がない」


「そうか。お主の腕前は見事ではあるが、我らにとっては目障りな存在であった。いずれ大御所がお沙汰を下すであろう」


 昌景は右近を捕らえたまま秀吉を追った。





 その秀吉だがひたすら逃げていた。右近がいい足止めをしてくれた。これで追いつけまいと。ふと前方を見ると林が見える。今日は陽射しが強い。木陰は有難いと林に向かって急いでいると、突然林の一部が燃え出した。


「何だ、燃えているぞ。敵か?」


 本多正信は物見を出した。まさか待ち受けていたのか?いや、あり得ん。秀吉一行は足を止めざるを得なかった。物見が帰ってきた。


「誰もおりません。火を起こした形跡もありません」


「どういう事だ?」


 火はどんどん強くなっていく。仕方がない、あの林を迂回して進むことにし、方向を変えて進んだ。しばらくするとまた林があった。今度こそ木陰に入れるなと進んでいくとまた木が燃え出した。


「ええい、どういう事だ。何が起きている?」


 またもや物見の報告は同じ内容だった。と、その時突然ドーンと音がして火の勢いが増した。秀吉一行は林に目が奪われた。その背後から何かが飛んできて数十人の兵が死傷した。





 火を起こしたのは勝頼達だ。新型ハンググライダー光乃突刃叉ヒカリノツバサには蝶のような羽根が付いている。その羽根の中央はレンズになっていた。空中から先回りし、6人X2のレンズで太陽光を集め木を燃やしたのだ。その名の通り光を集める翼だった。燃えるまでは時間がかかったが何とか間に合った。足止めが目的だったが秀吉が方向を変えたので、また先回りし木を燃やした。その後、勝頼だけ上空に残して他の5人は攻撃準備に移った。勝頼は準備ができたのを見ると、視線を集めるべく上空から原油をかけた。火に油を注ぐとはよくいったものだ。まさしく炎上した。


 秀吉一行が火に目を奪われている中、高城、寅松、紅、黄与、紫乃の5人はエンジン全開で高さ1mの水平飛行に入った。陣形は逆V字型だ。そしてそのまま着脱ボタンを押しバク宙してハンググライダーから離脱した。


「行けー!Vアターーーック!」


 光乃突刃叉ヒカリノツバサの両羽根の先端にはジュラルミン製の刃が付いている。勢いよく飛んだ刃は秀吉一行後側の兵を切り刻んだ。


「今度は何だ、何が起きた?」


 秀吉が叫び後ろを見るとこちらを見ている5人が見え、その後ろから赤備えが近づいてくるのが見えた。そしてその5人の前に空から1人の漢が地面に降りたった。

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