俺はジョーカー大統領

坂崎文明

2020米国大統領選挙

「トランプめ、よくも不正選挙集計機デミダスの不正投票を暴きやがったな。デミダスを使って不正選挙をしている仲間の英国首相やヨーロッパの首脳たち、属国の日本の総理大臣には大統領の祝辞を送ってもらって、日米の左翼メディアには大統領就任のフェイクニュースを流してもらった苦労が水の泡じゃないか! 三日前に大統領だった肩書がただの政治家になってるが、悔しいからトランプもただの政治家だというフェイクニュースを流してるもらったが、ちきしょうめ!」


 という愚痴を言っても仕方がないか。

 俺はジョーカー・ライアン、2020年に米国大統領になるはずだった男だ。


 それが史上最大の不正選挙組織を作ったのに、あのトランプが7200万票も取りやがったので、プランBで選挙終わった後に、夜中に十三万票の不正票を束で運んだら、数学的に不可能な票だとか、風刺イラスト描くやつも出てきて、SNSで炎上してるらしい。


 しかし、不正経理を見抜くための『ベンフォードの法則』というものがあって、何も手を加えなければ、1から順に数字の出現頻度が多くなるらしい。

 俺の不正投票がこの法則から外れまくっていて、不正したのが科学的にバレバレになってる。

 フェイスブックやグーグルのITエンジニアは優秀だと聞いていたのに、そんなこともプログラミングできないのか。

 自動プログラムで最後に数字をいじればいいのに、この無能どもが!


 もちろん、フェイスブックでは自動検閲ソフトでクリックしないと非表示にしてるし、ツイッターでは台湾の保守系メディアの大紀元のアカウントを削除したり、トランプ大統領のツイッターは非表示しまくってるし、グーグル検閲エンジンでも、俺に都合の悪い記事は出ないようにしている。

 ここまでしてるのに、全く世論を抑えることができない。


 俺はやっぱり、大統領になれない三日天下男なのか。

 いかん、いかん、諦めちゃいかん。

 ずいぶん、認知症が進行してしまってるが、大統領になる夢だけは忘れない。

 あ? 何の話だったかな?


 あ、とにかく、あのシドニー・パウエルとかいうオバサン弁護士が出てきてろくなことがない。

 俺が不正投票した州を訴えて選挙を無効にして、最高裁に持ち込むとか、有効票だけで大統領を決める戦略を取り始めている。

 そんなことしたら、トランプ7200万票、ジョーカー2600万票という実体だとバレちゃうじゃないか。

 

「ジョーカーさん、はいはい、着替えて下さいね」 


 白衣の黒人看護師に着替えを渡された。

 部屋着のようだが、何のつもりだろう。


「俺はどうして病院にいるいんだ?」


「ああ、記憶が混乱しているみたいですね。あなたはクリスマスに家で心臓発作で倒れたんですよ。それでここに入院したんですよ」


「今はいつなんだ?」


「一月一日です」


「大統領選挙はどうなったんだ?」


「……それは」


 黒人看護師は口ごもった。


「いいから言ってくれ。大統領選挙はどうなってる?」


 黒人看護師は渋々、答えた。


「あなたが倒れてから、民主党の首脳はハリスさんを女性初の大統領として担ぎ出したんです」


「本当か」


「もう仕方なかったんですよ。記憶にないかもしれませんが、あなたもちゃんと納得して苦渋の決断をしたんですよ」


 黒人看護師は申し訳なさそうな表情で説明した。


「そうなのか。それでは仕方ない」


 俺はがっくりと肩を落として、次第に目の前が真っ暗になった。

 人間、絶望すると、本当に目の前が真っ暗になるんだなと思った。

 



        †


 


「おじちゃん、どうしたの?」


 金髪碧眼の天使のような幼女が俺に話しかけてきた。

 年の頃は五歳ぐらいか。

 かわいい盛りだ。

 ひょっとして俺はすでに天国に召されたのかと思ったが、そこは白塗りの壁の続く病院の廊下に置かれた休憩用のベンチだったし、いくら認知症が進行していても、ただ呆然と考え事をしていたことぐらいは、まだ思い出せた。

 いつもなら、幼女に挨拶のキスをせがんで嫌がられるぐらいのことはするのだが、流石に大統領になれなくなったショックでそんな元気はなかった。

 この前、トランプの支持者の幼女に「近寄るな! ジョーカー!」というプラカードを持たせた母親がSNSに写真をアップしていて、非常にムカついたことを思い出す。

 全く、嫌な思い出ばかりだ。


「おじちゃんはね。人生に疲れてしまったんだよ」


 天使のような幼女につい、弱音を吐いてしまった。

 あれだけ不正投票を責められても、ちっとも良心が痛まなかったのに、ほんとに心が弱くなったものだ。


「知ってるわ。大統領になれなかったんだね。おじちゃんの記者会見をみたもの」


 そんな記者会見した覚えがないのだが、おそらく、人工知能A Iでフェイク動画を合成したのだろう。

 グーグルの映像合成技術なら簡単なことだ。

 最近、体調がきつい時にはハリウッドのFSXの特殊ゴムのフェイスマスクで影武者立てたら、「ゴム人間! ゴム人間!」とSNSで呼ばれているらしい。

 俺だって体調が悪い時はあるんだ。

 もう七十七歳だぞ!

 老人を敬う気持ちぐらい持てよ!

 この前、某国の皇室の皇太子も若すぎる影武者立ててしまって、SNSでバレバレだったのに、何の非難もないのはどういうことだ。

 まあ、俺と違って尊敬されてるから大目に見られてるのだろうが。

 仕方ないのでいつものように陰謀論だ!と馬鹿な大衆を思考停止に追い込むマジックワードで誤魔化そうとしたが、米国は目覚めた大衆が多いので効果が薄くなってる。

 日本ではまだ十分通用するがな。


「おじちゃん、元気をだして。大統領になるだけが幸せじゃないと思うの」


 金髪の天使の言葉が俺の心を揺さぶった。

 いや、確かにそうかもしれない。

 この四年間、大統領になることを目指して、史上最強の不正選挙組織を作って頑張ってきたが、振り返れば、俺の幸せって何なのだろうか。


「金髪の幼女にモテモテになる幸せもあると思うよ」


 何を言ってるんだ?

 この幼女は?

 まさか俺の心を見透かしているのか?

 いや、よく考えたら俺の幼女好きは米国なら誰でも知ってることだし、ちょっと認知症が進んじゃったかもしれないな。 

 

「おじちゃん、大統領になれなくても、副大統領になれる方法はあると思うの」


 まさか、この幼女は、マリー・アントワネットの生まれ変わりか何かか?

 『パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない!』とか言ったとか、言わないとか。

 あれは本当は1760年出版のある本に「トスカーナ大公国の公爵夫人の発言」だと書かれていて、正確にはバターと卵を使ったブリオッシュという菓子パンをお菓子と言ってるだけなんだな。

 そんな豆知識はどうでもいいが、ちゃんと調べればフェイクニュースだと分かるはずなのに。

 そんなことだから俺の配下の全米の左翼メディアがオールフェイクニュースを流しても一切、気づかないんだよ。

 いや、そんなことより、金髪の天使ような幼女にモテモテになって、更に、副大統領になれる方法があるのか。


「金髪の天使ような幼女にモテモテになって、更に副大統領になれる、そんな方法があるのか?」


 ついつい心の声が全開になってしまった。

 まあ、いい。

 今の俺に失うものなどない!


「おじちゃん、ちょっと耳を貸して」


 金髪の幼女が俺に耳打ちした。

 そうか、その手があったか!

 



 

      †

 



 

「ジョーカー副大統領、ご就任おめでとうございます。どうしても聞きたいことがあります。あなたはどうして不正選挙の罪を告白する気持ちになったのですか?」


 副大統領就任記者会見が終わって、俺はひと息ついていた。

 そこに、保守系メデイアのレポーターがマイクを向けてきた。


「そうですね。私は敬虔なキリスト教徒ですし、不正選挙の罪を告白して懺悔するのは当然のことですし、偉大なるトランプ大統領の力になれるなら、こんなに光栄なことはないと思っております。それと、本当の幸せを見つけたからでしょうか」


「その勇気ある行動が米国国民の心を揺さぶり、ジョーカー副大統領が誕生した訳ですが、あなたにとって、本当の幸せとは何なのでしょう?」


「それは言わない方がいいでしょう」


 俺は満面の笑みで答えた。

 傍らにあの金髪の幼女がいた。

 ぎゅっと手を握ってくれた。




 








(あとがき)

 

 あくまでこの話はフィクションです。

 実は昨夜、2000文字ぐらい誤操作で消えたんですが、書き直したら文字数も伸びて、ちょっと良くなった気もします。

 ハッピーエンドになって、めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺はジョーカー大統領 坂崎文明 @s_f

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説