紅子の女中

木谷日向子

第1話

○川沿い(昼)

T・大正時代

川辺に人がまだらにいる。

吉野紅子(17)、鼻歌を歌いながら川沿いを自転車で走っている。袴を穿いて着物を着ている。

川沿いにうつ伏せで倒れている溝口かや音(13)。顔を少し上向かせている。

着物を着た体の下半身が川に浸かっている。

紅子、それに気付き、不思議そうな顔で川辺の紅子を見る。

紅子「あれ、あの子……」

自転車を停め、降りると川沿いに倒れているかや音を抱き上げる。

紅子「おい、アンタしっかりおし!」

ぺしぺしとかや音の頬を叩く。

うっすらと瞳を開き、また瞳を閉じるかや音。

紅子「待ってくれよ……」

紅子、かや音を持ち上げると、肩にかつぎ川沿いを上がっていく。

×   ×   ×


○紅子の家・玄関

扉を少し開けて中を覗く紅子。紅子の目だけが覗いている。

家の中は閑散としており、人はいない。

紅子「よしよし」

紅子、一気に扉を開け、中に入る。

清田の声「紅子さま、お帰りで」

紅子「へ?(はっとした顔になり)」

家の奥から清田正夫(50)が現れる。

紅子「うわああ!」

紅子、不自然に背後に手を回し、限りなく作り笑顔になる。

清田「紅子さま、どこにいってらっしゃったのです。ん?背中が痛いのですか?」

紅子「いやいや、何でもないよ清田!」

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紅子の女中 木谷日向子 @komobota705

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