最終話 噂のあの娘の気になる噂・最新版

 今年もゴールデンウィークがやって来た。

 例のレポートは連休前に提出したので何の憂いもなく伸び伸びと遊べる。

 中学最初の貴重な連休をダラダラと怠惰に過ごしたが後悔はしていない。


 そうこうしている内にゴールデンウィークは明けた。

 いつもの日常。

 代わり映えのしない毎日。


 いや、変わったことが一つだけ。

 黒神小雪。

 連休が明けてからの彼女は雰囲気が柔らかくなった。

 よく笑うようになり、センスのいい冗談を言っては皆んなを笑わせた。

 いつの間にか会話の中心にいる彼女は誰からも好かれ、誰からも一目を置かれた。

 ザ・ミステリーなどと陰で呼ばれた面影はどこにもない。

 彼女に関する妙な噂も今となっては笑い話。


 それでボクと黒神小雪との関係だが。

 彼女からは他のクラスメイトと同じ扱いを受けている。

 つまりボクという存在はその他大勢のうちの一人でしかない。

 今までの流れからすれば黒神と付き合うようになってもおかしくはないのだが、そんな展開は小説やマンガの中でしか許されないのだろう。

 世の中はそんなに甘くない。


「なあハラゲンよ、話がある」

 ある日、バスケ部の野村から声をかけられた。

「わかった。話を聞こう」

 ボクと野村は近所のファミレスに移動した。


「オレってバスケ部だし背が高いし運動神経もあるからそれなりにモテるだろ」

「……ああ」

 いきなりの自慢話だが、ファミレス代は野村が奢るので我慢して聞いてやった。


「実はな、黒神小雪に告白しようと思っているんだ。だから協力してくれ」

「ブッ!? ゲホッゲホッ」

 飲みかけたコーヒーを思わず吐き出した。


 たしかに最近の黒神はキラキラと輝いていた。

 ならば彼女に恋する男子が現れるのも不思議ではない。


「ハラゲンは黒神とペアを組んでたんだろ、レポート作成の時に。だったら黒神についてはある程度は詳しいはず。頼む! 知っている限りの事を教えてくれ。黒神の性格、好きな芸能人や好きなTV番組。そして好きな食べ物なんかを」

 野村は必死にお願いしている。


 ボクを頼ってくれたのは嬉しい。

 だけど何か面白くない。

 ボクのハートにザワワ、ザワワと不愉快な風が通りぬけていった。

 気がつくとおかしなことを口走っていた。


「そうだな、黒神に告るのはやめといた方がいい。というのも今は猫をかぶっているが本来の性格は冷酷で残忍。全身はうろこに覆われていて口からは1兆度の火球を吐く。好きな食べ物は生きた獣と蛇で……」



(お・わ・り)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドキドキドン! 中学一年生 はらだいこまんまる @bluebluesky

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ