115.浮遊大陸-2
セーフティエリアから離れ、一人で探索を始めてから二時間ほど。少しこの浮遊大陸というエリアの特徴がわかってきた。
まず今俺のいるフィールドは普通の山である。特徴としてはコリア丘陵の森林部と変わらず、針葉樹から広葉樹まで様々な植生があり、下生えは少なく歩くことは容易になっている。
ただコリナ丘陵やアーデラス山脈の森林部とは違って木々の密度も少なく、上を見上げれば木々の隙間から空を見上げることも出来る。また地形もコリナ丘陵などボスエリアの向こう側のエリアと比べると歩きやすい地形が多いように思える。
次にモンスター。このエリアには三種類のモンスターがいるようだ。一つ目はこちらを敵とみなして襲いかかってくるタイプ。これはゴブリンや巨大な蜘蛛など、あちら側でも見たことのあるようなモンスターが多い。先程アナウンスで言われていた通り強さはそれほどではなく、一人で相手しても倒すのにはそれほど苦労しない。マノピの方がよほど強敵だ。
二つ目は羊やゴウト、鹿といった穏やかな動物だ。これは普通のフィールドにはいないタイプだが、俺はコリナ丘陵やアーデラス山脈で見慣れている。西の街付近の肉が取れる牛なんかも同じタイプだろう。
そして最後に。まだ見たことがあるだけで関わったわけではないのだが、どうやら少し特殊なモンスターがいるらしい。ゴブリンや他の敵対的なモンスターの用に普通に生息しているだけでではなく、木の蔓で出来た檻の中にいたり、ゴブリンに囚われたりしているモンスターだ。
見た目は他のモンスターと違って小さく可愛らしい。言ってみれば幼獣、聖獣、といったところだろうか。まだ成長しきっていない子供の見た目をしており、成長すればファンタジーらしい生物に成長するのだろう、と思えるようなモンスターだ。
そんな可愛らしい生物がゴブリンに捕らえられていたり檻に囚われているのは見ていてかわいそうに思えるが、今すぐ害が加えられる様子は無かったので放っておいた。余裕が出来たときには、見かけたら救おう。
「地形も大分違う、か」
ひたすら上に向かって歩いたことで、頂上とは言わないまでも山のかなり高い部分にたどり着くことが出来た。山肌から飛び出している岩の上に立って下を見下ろすと、この浮遊大陸のある程度の地形が把握できる。
山らしき場所は今俺が登っている一箇所だけで、下には森、そして草原、はるか向こうには岩場らしき場所が広がっている。川や湖らしき場所もいくつかあり、様々な地形をこの一つのマップに放り込んだのだろうということがよく見て取れた。
それにしても、早々にこんな高台を見つけることが出来たのは運が良かった。他のプレイヤーは掲示板なんかで情報を共有しているだろうが、俺は少なくとも今は掲示板を見るつもりはない。
アルトの窓を見ると、マップは歩いたところだけがマッピングされるようになっているらしい。おそらくパーティー同士でマップ情報を共有したり、持っている情報を他人に渡したりといったことも出来るのだろう。
まあそのあたりはおいおい、あいつらと合流することがあったら考えれば良い。
「とりあえずは山頂、だな」
山の下側の様子も見え、あちこちから焚き火の煙が上がっているのも見えた。おそらくプレイヤーの開始地点はこの浮遊大陸中に散らばっているのだろう。
他のプレイヤーは何か有用なアイテムは無いか、レベル上げに使えるものは無いか、等考えているだろうが、俺が考えるのは見たことのないもののことだ。
だからまずは山頂へ。このフィールドで一番高いであろう、山頂へと行くことにする。
食料は今の所は干し肉など備蓄があるが、念の為ここからは動物を見かけ次第狩っていくことにする。このあたりは山の中腹だと思うが、すでに羊や牛は見かけることが無く兎や鹿、ゴウトといった山での生活に適したモンスターばかりになっている。
もしここより上へと登ったときに食料となるモンスターが居ないとなると困るのだ。それほどの労力でも無いし、出来る事はしておきたい。
隙間を開けて立っている木々の間を抜け、道なき斜面を登っていく。下生えが無く歩きやすい、が、それは俺がスパイクを履いているからであって、おそらく普通の革靴やブーツでここに来ると苦労する気がする。
それぐらいには傾斜が険しくなってきた。この調子だと今日眠る場所にも困りそうである。今回は一週間だけのイベントなのでいつものように仮拠点を築くつもりはなく、そのためにテントも持ってきたのだが、この調子ではテントを立てる場所にも困りそうだ。せめて岩陰やくぼみなんかがあると良いのだが。
ゴブリンやオーク、巨大な蜘蛛のモンスターを避けながらひたすら上へと登っていく。どうやら山頂に近づくに連れて出現するモンスターは強力になっていく傾向があるらしい。
普通にそれまでも出現していたゴブリンの群れの個体数が多くなっていたり、おそらくマジシャンと思われる杖を持った個体が増えていたりする。オークに関してはそもそも強力なモンスターだと思うが、それも群れの個体数が増えていたりとパーティーの戦力が強力になっているようだ。
「大分高いみたいだな」
しばらく歩いたが、一向に山頂が見える気配はない。せめて開けた場所でもあれば山頂が見えるかも知れないのだが、そんな場所が見当たらないのだ。逆に言えば、常に目の前の傾斜が近くにあるということからもう山の上の方に来ていると考えることも出来るのだが、とはいえ先が見えないとどうしたものか考えてしまう。
幸い、アーデラス山脈で活動していたときの防寒防具も装備してきている。とりあえずはこのまま上へと向かって歩いてみることにしよう。
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夜になったがまだまだ山頂にはつかず、途中で見つけたセーフティーエリアにテントを張って眠ることにする。夜間の登山も出来るには出来るのだが、明日以降もあるしとりあえず休むことにしたのだ。
夕食には近くで穫れたファーラビットという兎の肉を食べることにした。木を削って串を作り、兎の肉を指して丸焼きにする。味は簡単に塩を振りかけるだけだ。
「結構長い……というか、高いなこの山」
昼前から登り始めて、すでに一〇時間近くは登っている。生えている木も短くなってきているので頂上が近いとは思うのだが、それにしても遠い。こういうのは何だが、なぜこれほど高いのだろうか。
この浮遊大陸は、今の所イベントの間しか来ることのできない場所だ。その期間も7日しかない。そんな中で、登るのに一日かかるような山が存在するのだろうか。
「秘境、か。この調子ならありそうだな」
アナウンスでは、このフィールドには秘境があると言っていた。秘境。その名前からして、人の到達が難しい場所ということだろう。ならばこの山の頂上もそんな場所になっている気がする。これだけ登るのに時間がかかっているのだ。
「明日も登る、か。流石に二日以上かけるのはもったいない気もするが」
兎の肉が焼き上がったので、塩をふりかけて食べる。
いくら秘境があるとはいえ、二日以上はかけたくはない。他の場所も回ってみたいのだ。明日は今日よりも急ぎ足で登ることにしよう。
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お久しぶりです。星屑です。
前回投稿からかなり空いてしまいました。
そのあたりの話と、今後の投稿ペースの話などを活動報告で投稿予定です。
気になる方は見に来てください。
冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~ 天野 星屑 @AmanoHoshikuzu
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