114.浮遊大陸-1

武闘大会が終了した翌日、イベントへ参加する準備を終えた俺は広場の屋台で遅い朝食を取っていた。




昨日はイベントが終わった後、宴会が立て続けにあって疲れる一日となった。




大会終了後にはマーシャの家に集まってナツ、フユ、アキ、の三匹と久しぶりに会い、ジントたちもやってきて皆で色々と話しながら昼食を取った。マーシャの店の作業スペースを皆で片付けて利用させてもらったが、流石に10人が集まると狭かった。




三匹とはしばらく会っていなかったが、俺の事はしっかり覚えてくれていたようで俺の事を見ると三匹とも競うように走って近づいてきた。一緒に行動していたときには声をかけても動いてくれなかったアキすらが嬉しそうに駆け寄ってきたのは、かなり嬉しかった。




皆で昼食を取ってしばらく攻略や生産の話をした後、その場は解散となった。かなりの時間話し込んでいたので、マーシャの店を出た頃には夜になっており、俺はすぐに次の集まりに向かった。




夜はルクシア内のレストランで仲間たちと集まって話しながら食事を取ることになっていたが、急遽変更となりルクシアの城壁外に集まることとなった。武闘大会で血が滾っている連中ばかりだったので、仲間が集って食事をするだけでは満足できないやつばかりだったのだ。




かくして昨晩は遅くまで皆でPvP大会となった。大会に出なかったメンバーも含めて全員が参加し、料理ができるメンバーが用意した料理や買ってきた料理を好き勝手に食べながら決闘システムを使ってPvPを繰り返した。




俺も戦闘範囲を限定して参加した。流石に近距離戦では皆にかなわなかったが、そこそこのダメージを与えることができた。




何が厄介と言って、あいつら皆弓を正面から打ち込んだ所で苦にしないのだ。避けるかはたき落とすのである。そうなれば弓のメリットである射程距離は潰されたようなものなので、鉈と弓を併用した近距離戦で楽しませてもらった。




合間合間に、コリナ丘陵以外の地域はどんな感じかと休んでる奴らに尋ねてみたのだが、すぐに次の決闘に誘われてまともに話が聞けなかった。




唯一ルクからは、海がこっち側と違ってサスカー海岸では綺麗だと教えてもらった。どうもこちらの海ではモンスター以外がおらず、海底などが寂しいらしい。以前彼が俺に頼もうとしていたのは水中の美しい風景を絵にすることだったが、まともに描ける物が無かったので断念していたらしい。もしサスカー海岸に来ることがあったら“水泳”スキルを使って潜って見てほしいと頼まれた。




そんな事をしていたので、イベントに関してはほとんど相談ができなかったが、とりあえずそれまで活動していたメンバーで挑むことになった。フォルクはあまりイベント自体に興味は無さそうだったが、他のメンバーは参戦することだし、どうせ普通に攻略していても楽しくないだろうからと参戦することにしているらしい。




そんなこんなで、広場で待っていると10時になり目の前に浮遊大陸のイベントに参加するかどうかの確認をするウインドウが浮かぶ。準備はしっかりしてきているので、もちろん参加を選択して確定を押す。




すると視界が明転し、少しして再び元に戻る。そこはすでにルクシアの街では無かった。




周りを見渡すと、数人のプレイヤーが俺同様に立っており、更にどんどんと転移してくる。装備の整ったプレイヤーに混じって、先日新しく入ってきたばかりのプレイヤーもいるのが見て取れる。




ひとまず人が多い場所を離れて、周囲の探索をし始める。今いる場所は、森、というよりは山の一部のようだ。コンパスが無いので完全に方角が迷子だが、どちらかの方角に向かって傾斜している。




探索を初めて5分ほどした所で、声が響く。




『ようこそ浮遊大陸へ、プレイヤーの諸君』




それは以前聞いたこの世界を作った男の声と同じだった。




『浮遊大陸でのイベントに関して説明しよう』




『このマップのモンスターは、他のエリアのモンスターと違ったアイテムをドロップする。それらは特に新しいプレイヤーたちにとって有用なものとなるだろう』




『また、最初からプレイしているプレイヤーにとっては通常のフィールドのモンスターのドロップするアイテムは大したものではないが、強力なモンスターもこの浮遊大陸には存在しているので、安心してもらいたい。アドバイスするとすれば、ダンジョンや秘境といった普通ではない場所の方がそうした強力なモンスターが出現する可能性は高い』




『また前々から注意している通り、このマップではリスポーンができない。とはいえ、新しいプレイヤーの諸君にとってはこれはかなり厳しい条件だと思うので、新しいプレイヤーの諸君は2回まで最後に通ったセーフティーエリアでリスポーン出来るようになっている』




『すでに実力のあるプレイヤーの諸君にはそのような処置を取らないので、慎重を期して探索してもらいたい』




『またこのマップにいる間はインベントリの容量を無限にしているので、アイテムの採取は自由に行ってほしい。またゲーム内掲示板も専用のものに差し替えてある。後で確認してくれ』




『最後に。最初は通常のフィールド同様探索をしてもらって大丈夫だが、この浮遊大陸では随時イベントが更新されていくので、都度アナウンスには気をつけてほしい』




アナウンスを聞きながら探索をしていたが、良いことを聞いた。彼は、『秘境』と言った。つまりそういう場所がこの浮遊大陸のどこかにあるのだ。是非探し出して見てみたい。




また浮遊大陸と言うだけあって浮いていると思うので、この大陸の端を見てみたくもある。下はどうなっているのだろうか。雲の上に浮いていたりしたらかなりの壮観だろう。落ちてみたいとは思わないが。




「とりあえず山上の方に進むか」




この浮遊大陸がどういう地形になっているかわからないので、まずは高いところを目指すことにする。




食料にできそうなアイテムがあればしっかり確保しながら進みたい。細工をするつもりはないので携帯炉はプライベートルームに置いてきているが、木工道具や矢の予備、鏃など色々と俺の必携セットを持ってきているので、食料を持ってくる余裕がほとんど無かった。満腹度不足でリタイアなどとなるとまったく笑えないので、食料、水の確保は考えながら行動しなければならない。




「セーフティーエリア以外で寝るのは危ないだろうな」




それも気になるところだ。コリナ丘陵やアーデラス山脈だとセーフティーエリアが存在しないが、その分場所さえ選べば安全に夜を越すことができた。




だが、この浮遊大陸にはセーフティーエリアがしっかり存在しているらしい。となると、そこでテントを張らないと寝ている間に襲われる危険性がある。




どこか探索した先でセーフティーエリアを見つけてそこにテントを張りながら進む必要がある。




ひとまずしばらくは周囲の山の様子を探りながら進むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る