掌編小説・『いい夫婦』
夢美瑠瑠
掌編小説・『いい夫婦』
<これは昨年の「いい夫婦の日」に因んで投稿したものの再掲です>
掌編小説・『いい夫婦』
「理想の夫婦コンテスト」、というのが「ミケホーム」社の主催で行われることになり、優勝した夫婦はCMに出演できるという触れ込みだった。
結婚して半年の翼夫と理子は、先週に「新婚さんよく来たね」という番組でハワイ旅行を射止めて、二度目のハネムーンを堪能してきたところで、「また金的を射止めてやろう」、と柳の下の二匹目のどじょうを、狙おうよ、という話になり、張り切ってコンテストに応募したのだった。
選考基準は、「お似合いの美男美女」、「馴れ初めのエピソードが面白い」、「ミケホームの家かマンションに入居、居住している」、「猫を飼っていて、面白いエピソードがある」・・・等々らしい。
なるほど、そういう条件がそろった「いい夫婦」なら面白いCMが作れそうだな、よく考えてある・・・と翼夫は感心した。
二人は偶然全部そろっている「新妻家の夫婦」であって、それだけでも貴重かもしれず、「もうCMはいただきか」と、二人は新聞を眺めてニンマリしたのだった。
・・・ ・・・
「新妻さん、応募資料には結婚半年、ミケホームのマンションにお住まいで「ミケ」という猫を飼っていて、「人間の言葉が分かって、少しなら喋れる」ということですね。
あと・・・二人の馴れ初めは公園に捨てられて死にそうになっていた仔猫のミケが、自転車に轢かれそうになって、走り寄って、助けて拾おうとして、夢中だったのでお互いの存在に気づかなくて、伸ばした手が触れ合った・・・という瞬間だったんですね?」
「ええ、二人とも猫が大好きで、夢中で駆け寄って助けようとしたんです。
同時に拾い上げて・・・泥だらけのミケを挟んではっとなって・・・そしたら、目の前にすごい素敵な異性がいて・・・お互いにワンアイラヴして・・・交際して
結ばれたんです」
翼夫は照れて赤くなって、頭を掻いた。
「素敵ですね。ミケちゃんが言葉が分かると言って・・・具体的なエピソードありますか?」
「ミケは賢いんです。性格もいいから人気者です。具体的には・・・「ご飯だよ」と言うとご飯皿の前に行って「みゃー」と鳴きます。「猫じゃらし」と言うと、おもちゃ箱に走っていって取ってきます。「ミケちゃん、カワイイね」と言うと尻尾を振ります。「かしこいね」というとちょっと照れます。「煮干し」と言うと目を輝かせて冷蔵庫の前に行って座ります。そんなとこですかねえ」
「可愛いですねえ。新婚生活はどうですか?」
「ミケホームのマンションは住み心地も良くて、採光や通気性も良くて、猫を飼う人には理想的と思いました。猫が縁で結ばれて、今でも猫中心の生活、という感じもあります。仕事もプライベートも順風満帆で、こんな幸せを招いてくれたミケにはしきれないくらいの感謝の念を抱いています・・・」
・・・ ・・・
しばらくして、「おめでとうございます。新妻翼夫・理子ご夫妻が『理想の夫婦』グランプリに、選ばれました。つきましては・・・云々」という書状が届いて、二人は「ミケホーム」のCMに出演することになった。
ミケも特別出演することになった。
もちろん、夫婦は躍り上がって喜んだ。
「ミケは本当に福猫で招き猫だな」と、翼夫は、ミケのつややかで美しい毛並みを改めて撫でて慈しんだ。ミケも全て分かっているかのように、目を細めて喉をゴロゴロ鳴らすのだった。
その夜には、ペットショップで買ってきた煮干しケーキを挟んで「三人」でお祝いした。いや、正確には「四人」だった。理子のお腹には、既に夫婦の愛の結晶、ハネムーンベビーの新しい生命が宿っていたのだ・・・
・・・ ・・・
二か月後に、出来上がったCMは感動的で、出色の出来と言えた。
・・・まず夫婦の公園での出会いがセピア色の映像で再現されて、デート、結婚式、ハネムーン、二人の現在のラブラブな生活へとパノラマ風に展開していく。
もちろん随所にミケの可愛らしい仕草やエピソードが交えられる。
そして最後、「理想の夫婦に理想のお住まい・・・ミケホーム」というナレーションと文字が出るのだ。
本物の「理想の夫婦」を起用したこのCMは話題となって、今日、「いい夫婦」の日に、「ベストカップル」賞の、審査員特別賞に、新妻夫妻が選出された。
賞金のほかに、副賞として、豪華な猫タワーと、煮干し一年分が贈呈された。
これはもちろん、「いい夫婦」の本当の立役者のミケに、「欲しいものは何ですか?」とお伺いを立てて、返ってきた答えに沿ったご褒美なのである・・・
<終>
掌編小説・『いい夫婦』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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