2 春に、妬く




「好きです……! 俺と付き合ってください!」



 ――本気、だと思った。


 たぶんもっといろいろと言いたいことがあったのだろうが、絞り出した末に口をついたシンプルな本心。彼が本気であることを何より物語る告白だった。


 でも、だからどうした。知らんがな。それが私の正直な感想。

 そもそも彼とは大した親交はない。そんな相手から突然――クラスメイトの女の子に呼び出されたかと思えば、待っていたのは男子。名前もロクに知らない相手から告白されても、正直困る。


 私のことが好き? なぜ? ホワイ?


 私は顔が良い、と自負している。ただし、性格は悪い。自覚がある。そんな私を好きになるのはやはり、顔が理由――


「……うわ何これキモっ」


 顔だけじゃない理由が事細かに書かれた手紙が届いた。それを見つけた瞬間「長文キモい」とでも言ってやろうと思っていたのに、これはもう小説である。鳥肌が立った。こいつはヤバい。早急に対処しなければ。


 目の前で引き裂いてやると、今度はお返しとばかりに教室の真ん中で告白された。


 その心の強さには素直に感服する。過去に羞恥心を失う出来事でもあったのだろうか。


 そして――その日、彼はやたらとこちらを気にする素振りを見せつつも、めちゃくちゃそわそわしつつも、まるで何かを待つように行動を起こさない。間違いなく何かをする気だろう。


 それが多少――楽しみじゃないと言えば、嘘になるかもしれない。

 だってほら、退屈な日常にちょっとした刺激をくれるから。


 なんというか、そう――誰かが自分わたしのことを考えて、その頭をいっぱいにして、貴重な時間を無為に費やしているというのは――心地が良い。

 誰かの生活の中心に、その心のまんなかに私がいる――


 優越感うっとり


 さて、今日はどんなことをしてくるか、そのために費やした時間をどう無為にしてやろうか――


 ふと、彼が背筋を正す。とうとう来るかと思ってその視線の先に目を向ければ、教室に現れる彼の幼馴染み。

 彼女がちらりとこちらを見て――



『あのさ、冬里とうりさん。あとで屋上に来てくれない?』



 軽やかな足取りで彼に近づいた彼女は、



『そこでたぶん告白されると思うんだけど、』



 彼に抱き着き、公衆の面前で――その頬に、キスをした。




                  ■




「あんたの言うように、本当に冬里さんの気を惹けてるとして。それなら――もう一押し、というかもう一引きする必要がある」


「……そのプランとは?」


「ズバリ、恋敵ライバルの登場」


「……ライバルも何も、戦闘状態に入ってないのだが」


「これまで自分に告白してた男子が、急に他の女子といい感じになってたら……多少なりとも心が揺れ動くと思わない? 揺れ動いてほしいでしょ? その隙を、グサリと決めるわけ」




                  ■




『――断ってくれる? きっぱりと。でもちょっとだけ、その気はあるような素振りをしてほしいかな。どうせ諦めないだろうし』


『……そうすることで、私に何かメリットが?』


『冬里さん、友達いないじゃない? だから――私が、友達になってあげましょう』


『何それ』


 呆れつつ、不覚にも私は少し、面白いなと思ってしまったのだ。




                  ■




 ……なるほど、私をダシに彼との距離を詰めるつもりだったわけ。


 既成事実をでっちあげ、周囲に自分たちが付き合っていることを印象付けて彼が逃れられない状況を作り出す。気付けば彼も彼女の虜。まったく素敵なお友達だこと。


 それじゃあ私は、どんなお返しをしてあげようかしら。


 彼を奪ってみせようか。


 彼女の頭のなかが、私でいっぱいになるように。



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きみの県庁所在地になりたい。 人生 @hitoiki

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