堕ちて

 張替が出ていった後、僕も後夜祭へ向かおうとして、ふとある事を思い出した。


「後夜祭を一緒に、ってことは多分フォークダンスも踊るんだよな……」


 去年は全くと言っていいほど文化祭で何もしていなかったので忘れていたが、後夜祭ではキャンプファイヤーを焚き、フォークダンスを踊るのだ。

 当然、張替とも一緒に踊ることになるのだろう。


「……」


 僕が張替の隣で、いいのだろうか。

 正直、僕が張替の隣で踊ったとして、果たして釣り合っているのか。


 急に心の中に浮かんだ不安。

 

 やっぱり自信がない。

 だから僕は手を伸ばした。


 彼女が一番好きな「自分」へ。


 僕は女装して、私へとなった。


 こっちの自分なら恋羽の隣に立てる。

 それに、恋羽もこっちのほうが喜んでくれる。


 そう言い聞かせながら、恋羽のもとへと向かう。

 恋羽はグラウンドへ降りるための階段に座って、


 恋羽はこっちの姿の私を見て、表情を輝かせなごら私へと駆け寄ってきた。

(やっぱり喜んでくれた)

 テンションの高い恋羽が私の手を取って「かわいい!」とか「好き!」とか色々とまくし立てている。


(ほんとに好きなんだな)


 嬉しい気持ちと共に、少し恥ずかしくなった。


 ……。

 ……けど、恋羽が好きなのは、きっとこの「私」

で。


「私の気持ちが伝わったんだよね!? ハルの方からしてくれるなんて!」


 幸せそうにニヤけている恋羽を見る。


「もうチュ〜ってして、チュ〜って!」


 私の中の何かが、カチリと切り替わった。


「ッ!?」


 いつの間にか至近距離に恋羽の顔が迫っていた。

 何が起こった?

 私は今、恋羽に唇を押し付けて……。


「なっ、何を……!?」

 私の突然の行動に慌てふためく恋羽。

「そういうことだから」


 私はそう言い残して、その場を離れ、校舎裏までやってきた。

 いや、恋羽から逃げたと言った方が正しいかもしれない。


 走って。

 息を切らして。

 恋羽と別れてすぐ、私はひと目のない、離れた校舎裏へとやってきた。誰もいない事を確認して息をつく。

 胸に手を当てるとばくばくと心臓の跳ねるのが強く伝わってきた。

 唐突に、さっきの事がフラッシュバックする。

 顔が真っ赤に染まる。


「うわぁ……」

 校舎の壁にもたれて、へなへなと座り込んだ。

 あんな事するつもりなかったのに。



「何であんなこと……」


 嫌われた。

 恋羽の気持ちも考えず、ただ自分の気持ちを押し付けてしまった。


 ──それなのに。


「あは」

 脳裏に焼き付いた、唇の感触と、恋羽の驚いた表情。

 ぞくり、と身体が震えた。


 もういい。

 “僕”の事は好きじゃないのだとしても、“私”の事が好きならそれで。


「だけど」


 私から離れられないくらいに。


「私を、好きにさせる」


 ぺろりと唇をなめる。


「覚悟してね、恋羽」




───────────

久しぶりの更新ですみません。

中途半端なところで本当に申し訳ないのですが、ここで完結とさせていただきます。

また、カクヨムコンにも応募していますので、よろしければ他の作品も見ていって頂けると嬉しいです。

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学園のアイドルが陰キャラの僕に「女装しろ!」と迫ってくる件について 〜女装したら彼女に愛されすぎて困ってます〜 水垣するめ @minagaki

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