第6話

「私たちにも、どうしてこんなことになったのか……」


 ノーズ家当主はため息を隠さず外に目を向けた。


 王太子、ロイヴァルドは側近のグリード、フィリクスを従えノーズ家へ来ていた。


「うちのセラフィナが天使なのは知ってますけどね」

「うちのセラが可愛すぎるのは知ってますけどね」


 親バカ発言に突っ込むことなく三人も外へ目を向けた。



「きゃふふ! きゃー!」


「ははは、待て待てぇー」

「捕まえるぞー」

「早く逃げないと食べてしまうぞー」

「待てー」



 そこには一人の幼女を追いかけまわす四人の男の姿。

 犯罪臭しかしない。


「捕らえます」

「待ちなさい、グリード。フィリクスは攻撃呪文の詠唱をやめなさい」



「つっかまえたーっ!!!」

「きゃっはー!」



 第二王子を差し置いて、欲望に忠実に行動したのは脳筋トリスト。

「オレのだー!」と不穏な言葉とともに腕の中に小さい子を囲う姿が見える。


 ガタッ


「グリード、座りなさい。フィリクス、始めましょう」


 王太子に促され、フィリクスは口を開く、


「魔導塔からの検査結果、セラフィナ嬢には無意識下での、魅了魔術の発動が確認されました」

「魅了……」


 夫妻は不安気に外に目を向ける。


「魅了とは無条件に人を引き付けるものですが、魔力の安定しない子どもには稀にあることです。人だけではありません、小さな動物も、防衛本能から無意識に魅了を発動することも多いのです。大抵は成長につれ、魔力の安定と共に無意識下での魅了の発動は抑えられますが……」


 言葉を区切るフィリクスに不安が募る。


「セラフィナ嬢はこの呪いの影響からか、特殊な……」

「特殊、とは……」


「……特定の、性癖にのみ反応する魅了効果が、確認されました」

「特定、の、とは?」


「……」


 続かなくなったフィリクスに一気に恐怖に染まるノーズ夫妻。王太子に目を向けるが、目を合わせることなく、「続けなさい」と紅茶を口にした。


「……セラフィナ嬢の魅了効果は、幼女愛好者のみ、反応するようです」


『え……』


「幼女愛好者とは未発達な10歳以下の少女へ、恋愛感情を持つ者を言います」


『……え?』


 夫妻は、ゆっくり庭へ、小さい子を囲む四人に目を向け、抱き合い声にならない悲鳴を上げた。



「わぁー! ありあとぉー、クゥにーたま」

「よく似合ってますよ」


 庭師が丹精込めて育てた花を引き抜き、毟り、作ったのは色鮮やかな花冠。

 脳筋トリスト以外は何事もそつなくこなす、ケイン、クライブ、カイルロッドの三人が作った花冠。三人の中でも一番器用なクライブが真っ先に作り上げ、セラに花冠を送った。


「セラは花のお姫様だね」


 リーチェにさえ見せたことのない程の、甘く、優しいカイルロッドの表情。

 ぽっと、頬を染める小さい子は、カイルロッドが作った花冠をそっと、カイルロッドの頭に乗せた。


「かいるしゃまも、はなのおーじしゃまね」


『!!』


 カイルロッドだけに向けられた小さい子の笑顔に、クライブと、行き場のなくなった花冠を手にしたケイン。拳を震わせたトリストは嫉妬の歯ぎしりをしていた。




「カイルロッド様も見事にかかりましたね……」

「そうだね……」


 王太子は頷いた。


 あのリーチェのシンプル、スッキリ、スットンとした体形から、カイルの性癖が見えた兄には、セラフィナ嬢の、幼女愛好者だけに効くという魅了にかかるのは納得できた。


「あとは、のを待つだけです」



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