岩は踏みにじられたがった

 どうしようもなくなった僕は手元のレザーの服に身を包んだ。いざ着てみると、まるで事前に測ったかのように僕の身体にぴったりだった。このフィット感は不思議と僕の気持ちも高揚させる気がした。

 水正さんは服の他にブーツも出してきた。ベルトのたくさんついたロングのレザーブーツだった。僕は水正さんに手伝われながら黙って履いた。


「やっぱりよく似合ってますよ」


 レザーに包まれた僕の姿を見て、子犬を見るように水正さんはとても愛おしそうな顔をした。


「それで……これを着て何をすればいいんです? その、後ろ、とか使わせたら満足してもらえますか?」


 覚悟はしていた。だって明らかにそういう服だったから。もちろん経験はない。でももうやるしかない。一億円なんて用意しようがないし。


「いいえ。そういうことは望みません」


 水正さんは僕の身体を壊さないように抱きしめた。再び僕のお腹に怒張した水正さんのものが当たる。大きくて筋肉質な胸の熱さや鼓動、にじむ汗、それに興奮した吐息が伝わってくる。


「その格好で罵ってください」


 とても嬉しそうな声で水正さんは言った。


*


 僕が罵るたびに、水正さんは大きな身体をくねらせて色んなところから体液を溢れさせた。まるでそんなおもちゃのようだった。イルミネーションのような夜景が見える窓に向かってひたすら全身を擦り付ける水正さんの後ろ姿はとてもエロチックだった。マイクロビキニだったからお尻なんてほとんど丸出しだったし。

 時折刺激が足りないのか、性感帯であろう場所も手袋のまま弄っていた。そして快楽を貪ること自体を罵倒してほしいかのように、懇願する目で僕の方を見つめた。


 だんだん僕も楽しくなって、罵倒の言葉がするすると出てくるようになった。


「これ目的で僕に声かけたんでしょ」


「そうです」


「年下に罵倒されたいだけであんなに真面目に教えてくれたんだ」


「そうです」


「本当はこの姿をみんなに見せたいんだよね」


「そうです」


「水正さん、いや水正のド変態」


「はい、私はマイクロビキニを着たド変態です……ッ」


 水正さんは身体を震わせた。どうやら絶頂したらしい。力が入らなくなったのか、水正さんはその場にへたりこんだ。

 窓は色んな体液にまみれていた。もちろん水正さん自身も。


「こんなので気持ちよくなるなんて」


 僕は足で水正さんの臀部を軽く蹴った。水正さんはヒッと声を上げて身体をのけぞらせた。


「こういうのも好きなんですね」


「大好きです」


「全然似合ってない格好して、年下に罵倒されて、その挙げ句蹴られるのも好きなんて……最低の人だ」


「裏切ってごめんなさい」


「『こんなことで気持ちよくなってごめんなさい』の間違いでしょ」


「はい……こんな、こんな変態行為で気持ちよくなってごめんなさい」


「自分で言葉付け足すとか、根っからの変態ですね」


「そうです……」


 水正さんはゆっくりと立ち上がり、窓にこびりついた自身の体液をねっとりと舌で舐めだした。


「綺麗にできるまで身体を触らないように。少しでも触ったらもうやめますよ」


「わかりました……」



*


 僕と水正さんは一晩中そんな行為に耽った。僕はほとんど罵倒して命令するだけ。飽きたら放置もした。水正さんはあの格好でひたすら自慰だけを続けた。快楽を求めて僕にすがって来たときも足で蹴飛ばした。水正さんはより嬉しそうな顔をした。

 罵倒している間、何故か僕の股間はずっと昂ぶっていた。


「今日は……ここまでで……大丈夫です……」


 水正さんの声はとぎれとぎれだった。そりゃああんなに絶頂していれば疲れもするだろう。時計も見てないから、一体どれだけ時間が経ったのかはわからないが。


「今日ってことは、またなんですか」


 ソファーに座りながら僕は冷たく言い放った。


「それは……」


 珍しく水正さんが言葉を詰まらせた。多分初めてだ。調子に乗った僕は水正さんを挑発した。


「僕、一度も出してないんですよね」


 僕は脚を広げ、見せつけるように軽く自分の股間を撫でた。やはりギチギチに張り詰めていた。

 水正さんは全てを理解して、四つん這いになって僕の元へ近寄った。そして器用に口で僕の股間のジッパーを下ろした。


*


 すべてが終わり、僕は無事に服を返して貰って帰宅していた。まさか、あの水正さんがあんな人だったなんて。


 僕は机に突っ伏しながら水正さんの身体を思い出した。全体的にゴツゴツとした姿。鍛えられた筋肉質な身体。太い指。分厚いまぶた。肉厚な唇。

 そんな水正さんが、ひたすら性欲に狂っていた。しかも異性の服を着てまで。なのに普段はあんなに温厚で、真面目で、優しくて。


 僕の脳内で二人の水正さんがイメージされる。絵の師としての水正さん。罵倒されることに悦びを感じる水正さん。あまりのギャップにあの行為がただの夢だったように思えてしまう。


 しかし、机の上には一枚の紙があった。


「私、水正みずまさ和良かずよしこと変態奴隷は佐土原さどはらすばる様の言うことを全て受け入れます」


 そんな一文のある契約書だった。右上には全裸姿の水正さんの写真もあった。僕はその紙をクリアファイルに挟み、誰にも見つけられないように引き出しの奥へとしまった。


 僕たちの師弟関係と主従関係はずっと続いていくことだろう。僕の心は弾んだ。

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岩を踏みにじる シメ @koihakoihakoi

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