愛と呼べない夜を越えたい
達見ゆう
あ、愛って、愛ってなんですか? 師弟愛? それとも?
「ねえねえ、聞いた?」
お昼の社員食堂。いつぞやのリベンジも兼ねて人数限定のカレーうどんをゲットして啜ってた私に同期の春海がスマホ片手に話しかけてきた。
「今年もアプスタで活動を始めたの! ゴスロリの瑠璃子お姉様」
「瑠璃子? 誰それ?」
「もう、フォロワーだけでも十万人いってるゴスロリのカリスマよ」
画面を見るとゴスロリのお姉様こと
「ほうほう、それで? ズズー」
一気に興味が失せた私はカレーうどんの世界に戻ることにした。ここのカレーうどんは前日の二日目のカレーを使うためとても美味いが、量が不確定なので意外と激戦区だ。カレーそのものも人気だから「本日はカレーうどんはありません」ということもしばしばだ。
「もう! そんなんだから、あんたは女子力がマイナスなんて言われるのよ! 瑠璃子お姉様も夏は肌を出すのが恥ずかしいから秋冬しか活動しないみたいだけど、少しは見習ったら?」
あんたの憧れの姫君なら、真後ろでトンカツ定食大盛り食ってるよ、夏はゴスロリよりマッパが気分いいからだし、冬のゴスロリ服の重さで筋肉がついてしまうから、露出度の高いゴスロリが似合わなくなるからだと聞いたことを言いたかったが、それはさすがに堪えた。
「いや、今度からメイク上手な知り合いから教わることにしたから大丈夫だよ」
そう答えると春海の顔がパッと明るくなり、安心した声のトーンになった。
「ホント? あんたもやっとその気になったか。じゃ、いつかはアプスタにでもビフォーアフターした姿でもアップしてね」
「顔を晒すのは抵抗あるな」
そう、だからヅカを目指すのだ。あれだけの濃いメイクと衣装なら違う自分になれる。アップしてもきっとバレない。
あちらがゴスロリの姫君なら私は男装の麗人の頂点を目指す。フッフッフ。
「あんた、カレーうどん食べながら不敵な笑いするの不気味だから止めなよ。汁も飛んでるし、周りがドン引きしてるよ」
しかし、
「あー、だめだめ! 下地を塗ったら五分間は放置して安定させるの! まだ三分しか経ってないから、ファンデをそんなに塗ったらよれるわよ! しかも、テカリ消しのパウダークリームも忘れてる! やり直し!」
彼の部屋でデパコスからプチプラ、コンビニコスメまで豊富な種類のメイク及び道具に囲まれ、フルメイクにゴスロリ正装のオネエ言葉になった
「ち、ちょっとメイク落としたら休憩させてください。お、お肌がヒリヒリしてきた」
「あらやだ、ファンデが合わなかったかしら、じゃ、この敏感肌用のメイク落としと乳液を使って休憩ね」
やれやれ、やっと休憩だ。と言ってもずっと基礎のファンデーション塗りからダメだしばかりされている。
時計を見ると午後九時半を回っている。明日は土曜日とは言え、そろそろ帰らないと。
メイク落としして、戻ってくると
よく見ると紅茶もクッキーもイギリスのブランドものだ。どこまで凝り性なんだ。
これが昼間にトンカツ定食大盛りをがっついていたサラリーマンかと思うとギャップ萌え……しねえな。
「何かガサツな言葉遣いで考え事していたでしょ」
私はギクリとした。なぜ見透かされたのだ?!
「そういうのは無意識に顔に出るものよ。メイクも大事だけど、まずは内面なら美しくならなきゃ」
うう、正論のはずなのに変態に言われると全く心に響かない。やはり弟子入りする相手を間違えたか。
「あなたの憧れる宝塚にもあるわよ。ブスの心得と言ってブスになるための十か条。そうならないように気をつける事ね」
「蓮見先輩、なんで格好だけじゃなく、中身まで乙女になるんすか? 夏とは大違いです」
「んもう! ここでは瑠璃子先輩と呼んで! そりゃあ、形から入るのが大事だからよ。元々男なんだから、こうやってなりきるのが綺麗になるコツなのよ。さ、せっかくいい紅茶をいれたのだから休憩しましょ」
そう言うと
……一瞬だけドキッとしたのはナイショだ。こ、これって百合なのか?! いや、男の娘というジャンルなのか?! 女が男の娘にときめくのはなんていうのだ? 男女だからノーマル? いや、やはり百合?
中身まで乙女になってるから、襲われるとかないという安心感もあったが、なんだかソワソワしてきた。
「あら、落ち着かないようね。そういう時は紅茶よ。紅茶には人を落ち着ける作用があるというからね」
言葉とは裏腹に私は落ち着かない。確かにいい茶葉だが味が分からなくなっている。男の娘にときめく私って、もしや変態の仲間なのか?!
「さて、お茶休憩終えたらメイクレッスン再開しましょ。お肌には悪いけど夜更かしすることになりそうね」
え?! このまま先輩の部屋にいるの? 下手するとい、一夜を共にするの?
私の頭は混乱しきりであった。
愛と呼べない夜を越えたい 達見ゆう @tatsumi-12
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