00

「――大きくなったら、僕と結婚してください」


 先日、祖父が引き取ってきたという少年、透くんに、何故だかわたしは告白されていた。この少年、まだまだ子供なのに、妙に言葉遣いが大人びている。中身がすでに成人済みのわたしからしたら、背伸びしているのかな、なんて可愛らしいものだが、年下のわたしにすら丁寧に接してくるのだから、なにかあるのだろうか、と勘ぐってしまう。


 まあ、わたしが前世の記憶を取り戻したのは最近のことだし、もしかしたら、以前のわたしを知っていて、そういう接し方をしているのだろうか。この少年を祖父から紹介される前に、普通に家で過ごしていたから、前世の記憶を取り戻したのと同時に、元のわたしの記憶は曖昧になってしまったから、わたしが忘れているだけなのかも。

 ……こんなにも丁寧に接してくるなんて、以前のわたしはどれだけこの子に横暴な態度を取っていたんだろう。ガキ大将か?


 それでも、こうやって告白してくるということは、わたしのことを悪く思っていないのは明白である。悪く、どころか、好きだからこうして言ってくるわけで。


 そう、告白。というか、プロポーズ。


 透くんは真剣そのものな表情だけど、子供の頃のこういう約束って、果たされないのがほとんどじゃない? むしろ、覚えていることの方が稀だと思う。

 とはいえ、あんまり邪険に扱うのも可哀想だしなあ……そうだ。


「いいよ!」


 わたしが快諾すると、透くんは、ぱあ、と顔を明るくさせた。


「ただし、わたしが見たことない、凄い万道具でプロポーズしてくれたらね。そうしたら結婚する」


 これなら、角の立たない断り方になっていないだろう。わたしが万道具に目がないのは彼も知っていることだし、なんの違和感もない。『喪ルケミスト』と言われる部類のプレイヤーだったこのわたしが驚くような凄い万道具って、具体的にはわたしにも分からないけど。


「――分かりました。絶対作って見せるので、待っていてください」


 ……わたしが想像した十倍くらい、真面目なトーンで返ってきた。これは、遠回しなお断りに気が付いていない奴だ。

 まあ、本当にそんな万道具を持ってきたのなら、考え直さなくもないけど……。


 そして、この日から、透くんはわたしの前で万道具を作るのを辞めてしまった。なんでも、「万結さんを驚かせるものを秘密で研究し、制作するので、見られると困ります」なのだとか。


 ――なんて、約束をすっかり忘れて、この約十年後、わたしは自分から、一般人では滅多にお目にかかれないような珍しい万道具をたくさんこさえて、彼に告白をかますことになるのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乙女ゲーのヒロインに転生しましたが、悪役令嬢によって攻略済みの世界でした~スローライフ希望なのでそれでオッケーです!~ ゴルゴンゾーラ三国 @gollzolaing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ