ハーピィに転生したら、変態騎士が孕ませたい(卵)と迫ってきて困ってます。

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転生したらハーピィでイケメン卵萌え騎士と出会いました。

「嘘でしょ……? 私、なんでハーピィなの?」


 大きな樹の枝に止まって、自らの腕……がなくて、翼を見る。私には腕がなくて、しかもそれが翼だった。足は鷹みたいに爪だし、下半身は鳥みたいにモコモコになっているけど、それ以外は人間みたい。なんだか気持ち程度の布が胸と鼠径部に巻かれている。股はスースーしていてノーパンだ。いや、手がないから仕方ないけど。でもパンツ履きたい。履かせてくれ。

 それはともかく……私は、この生物を知っている。ハーピィだ。よくRPGゲームなんかに出てくる、あのハーピィになっていた。


 気持ちのいい朝だった。私はいつものように里の皆より早起きして、朝の太陽を浴びながら、空を舞っていた。

 その時、私はいきなり前世の記憶を蘇らせたのだ。

 華の女子高生、と言えば聞こえはいいけれど、女子高でいじめにあって、それを苦に飛び降り自殺。思い出して3秒で忘れたくなった。

 私は生まれてきてこの方、ハーピィとして生きてきた記憶もある。この世界は、いわゆる中世ファンタジーの世界で、魔法とか私みたいなモンスターで溢れている。ちなみに、私もちょっとした風魔法なら使える。


 でも、特段危険もなく、ただ毎日同じルーティンをこなして生きているだけだった。魚とかを取って食べて、友達のハーピィと一緒に空を飛んで、他の種族のモンスターの男の子をかっこいいだのムサいだのなんだと談義して。そんな、ただのハーピィとして生活していたのに……最悪な前世の記憶を思い出してしまった、というわけだ。


 はぁ。来世では恋をしたいと願って死んだけど、ハーピィじゃね……ってかどうやって子供産むの? ハーピィってメスしかいないんだけど……って思ってたら、ハーピィは無精卵で子供が埋める産卵できるらしい。今世も私は恋をできなさそうだ。


 何となくこの人生の終わりが見えてうんざりして里に帰ろうと思った時だった。

 私達の里に向かっているっぽい騎士を見つけた。あ、この世界きてから初めて人間を見た。


(うわぁ、白人で金髪イケメン! 洋画の主人公みたい! やっぱりファンタジー世界だからかしら?)


 私も人間だったら、彼と話してみて、恋とかできたのにな。ハーピィじゃ殺されるだけよね。

 でも、このままいくと私達の里が襲われてしまう……こんな体でも、お母さん(しかいないし何なら卵から生まれたんだけど)や友達がいるから、せめて時間は稼いであげたいな。

 剣で刺されるの嫌だけど、戦うしかない。どうせこんな体で前世の記憶を持ったまま生きるのもつらいし。


「やるしか……ないよね」


 こうして私は、イケメンな騎士様を強襲した。

 戦った事なんてなかったけど、戦い方は本能が知っていた。

 風の魔法で先制攻撃を仕掛けて、脚の爪に全体重を乗せて振り下ろす。

 仕留めた──と思ったけど、ガキィンという音と共に、私の爪は彼の剣で受け止められた。

 だめだ、私はもう体勢が崩れている……! 殺される──そう思った時だった。


「待ってくれ! もし、僕の言葉がわかるなら、攻撃をやめてくれ!」


 イケメン騎士が唐突に声を上げた。


「僕は君たちと戦いにきたわけじゃないんだ!」


 その言葉に、思わず攻撃をやめて、彼を見つめた。

 彼も、私を見つめていた。そして、どこか彼の目元が緩んでいる。え、なんで?


「えっと……言葉は、わかります。私の言葉は通じますか?」

「ああ! よかった、ハーピィにも言葉が通じるんだね! 安心したよ。本当によかった!」

「もしかしたら、私だけかもしれません……」


 なにせ言葉を思い出したのはさっきだ。いや、ハーピィ同士でも話していたけれど、あれが人間に通じる保証がない。

 私の言葉を聞くと、彼は剣を収めてくれたので、私も少し距離を置いて、地面に降り立つ。


「えっと……それで、人間が何の用ですか? ここから先はハーピィの里しかありませんよ?」


 ああ、もう。私だって元人間だっつーの!

 そう言いたいけど、信じてもらえないだろうし、今はいい。だって誰が見てもハーピィだし。


「君は、凄く……その、可愛いね」

「へ?」


 いきなり意味のわからない事を言われた。そんな言葉は前世で男性から言われた事がなかったし、しかも金髪イケメンだ。乙女心として少し嬉しかったというのは、おかしいだろうか。

 しかも、ちょっと顔赤くなってないですか、騎士様? なんだか、そんな告白するみたいな顔で言われたら、私ハーピィなのにキュンってしちゃうからやめてよ。だって人とハーピィなんて結ばれるはずがないし──等と妄想を始めた私だったが、彼の次の言葉を聞いて、耳を疑った。


「よし、君に決めた」

「はい? 何がですか?」

「どうだろう? 僕の子を産んでくれないだろうか。君ので」


 私の視界は真っ暗になった。

 どうやら私がこの世界で初めて会った人間は、ハーピィに自分の子を孕ませたい願望をお持ちの変態騎士らしい。


(卵を孕ませたいって……いやいやいや、本気で言ってる?)


 そのイケメン騎士の言葉に、私はしばらく呆然としていた。言葉を失うとはまさしくこの事で、きっと前世の私でもここまで驚いた事はなかっただろう。


「えーっと……もしもし? 私があなたの卵を産むっていうのは、そのォ……冗談、ですよね?」


 おずおずとハーピーの私はイケメン変態騎士くんに訊く。

 冗談であってくれ。頼むから「冗談だ、死ね!」と斬り掛かってくれ。それで殺された方がまだ私は救われる気がする。


「冗談なんかじゃない!」


 しかし、イケメン変態騎士くんは私の希望を容易く打ち砕いた。


「正直に言おう。僕はハーピィの卵萌えだ」


 どうしようもない変態だったぁぁぁぁぁぁ!

 私の脳内ツッコミを消化するまでもなく、変態卵萌えイケメンは続けた。


「それだけじゃないぞ。僕の研究によると、ハーピィと人間が交わることで、新しい力を持つ存在が生まれる可能性があるんだ。どうだ、僕と君で新しい国を作らないかい? ハーピィと人間だけの幸せな楽園を!」


 めちゃくちゃ真顔で彼は言った。

 ああ……どうか夢であってくれ。朝目覚めたら元の世界のベッドであってくれ。

 そう思うものの、向こうでは死んでしまっていて、今の私は間違いなくハーピィ。これが現実なのだ。

 っていうかハーピィと人間の楽園っていうよりあなたの楽園を作りたいだけなんじゃないの?


「あの……大変申し上げにくいんですけど、私達ハーピィって無精卵で子供を作るんですよ。どうやってあなたの卵を産むんですか?」


 一応、聞くだけ聞いてみよう。

 純粋に気になるし、ハーピィが異種族の卵埋めるなんて聞いた事ないし。


「それには……ある秘密の儀式が必要なんだ。それがうまくいけば、僕達の子供も生まれるよ」

「……儀式?」


 私は小首を傾げた。

 こちらの世界ではハーピィとしてしか生活していないので、この世界の魔法や儀式はまだ理解しきれていない部分が多いのだ。当然、何か特別な儀式があればそんな事も可能なのかもしれない。


「そうだ。それには二人の心の絆が必要だ。僕は君と心を通わせることで、この儀式を成功させたい」


 ん? 何か雲行きが怪しくなってきた気がするんだけど、私の気のせい?


「ま、待って下さい。その儀式って……?」

「異種族交配に決まっているだろう! 言わせないでくれよ、破廉恥さんめ!」

「破廉恥なのはどっちだああああああああああああ!」


 私は心からのツッコミを入れた。ハーピィ人生初のツッコミ記念日。実に人間らしい瞬間だ。でも、こんなツッコミで人間らしさを思い出すのもつらいし、何だったら涙が出そうになった。つらい。

 でも、彼の瞳には曇りがない。純粋に私に好意を抱いてくれているように思うし、こんなイケメンに好意を寄せられるなんて、前の人生ではなかった。


「あの……どうして私だったんですか? ハーピィなんて、たくさんいるのに」


 私はつい気になって、訊いてしまった。

 ううん、イケメンに寄せられる好意の破壊力。こんな変態こっちから願い下げのはずなのに、イケメンっていうだけでどうして気になってしまうんだろう。悔しい。

 変態卵萌えイケメンは少し考えた後、答えた。


「言葉を話せるハーピィというのが初めてだったというのもあるが……いや、それは副産物というべきかな。後付けの理由でしかないよ」

「じゃあ……何でそう思ったんですか?」

「それはね、簡単だよ」


 彼は私の前で片膝を突いて、貴婦人にするみたいにして、私の翼に手を添えた。


「君に一目惚れしたんだ。人生で初めての一目惚れ。この気持ちと衝動を抑えられなかった」

「へ……?」

「確かにハーピィは数いれど、僕が心をここまで揺り動かされたの──君だけだよ」


 いや、イケメンかよ! イケメンだけど! 変態が言う言葉じゃないだろ! いや、イケメンかよ!(二度目) めっちゃキュンときたんだけど⁉ これどうすんの⁉

 きゅん、可愛くてご~め~ん~♡って脳内で前世の歌歌っちゃったよ! 私チョロ過ぎだろいい加減にしろ!


「えっと……もし、私が交配に同意したとして、私が卵を埋めたら……どうするのですか?」


 ああ、だめだ。私もダメだ。イケメンパワーを前にして交配を前提に物事を考えている。

 私の前世の雌としての本能がイケメンに負けそうになっている。いや、ほぼ負けてる。完敗だ。


「僕達の子は、新たな国の王として生きる事になるだろう。その子がしっかりと大人になる時まで、僕はその子を愛し、守り抜くよ。もちろん……君も、だけどね」


 卵萌えのイケメンはそう言って、私にウィンクした。

 ──ズキュン。何かが打たれる音がした。めっちゃ私の心が打ちぬかれた気がした。

 もうダメだ。私は──彼の誘惑に、逆らえない。


「えっと……私でよければ、ぜひ。不束者ですが、宜しくお願いします」


 こうして、私は変態卵萌え騎士と運命的な出会いを果たし、結婚したのでした。めでたしめでたし──って、そんなわけあるか! そんなわけあるか!


(了)

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