第5話
◇◇
翌日の夕方。私はカズくんと家の近くの公園へ立ち寄り、ブランコに並んで座った。
「そうか。塩屋さんの教科書が見つかってよかったな」
「うん! 結局犯人は名乗り出なかったけど、塩屋さんは許したみたい。先生も『この件はこれでお終い』ってさ」
「ふぅん」
カズくんは意味ありげに目を細めている。
私は口を尖らせた。
「なによ?」
「いや、なんで神楽坂さんを許したのかなぁってね」
「べ、別に許したわけじゃないわよ! チャンスをあげただけなんだから!」
あの時、私が言ったのは、
――犯人探しよりも大事なのは教科書探しだと思うの。だから明日までに教科書が塩屋さんの手元に戻ってくれば一件落着にしませんか!?
ということ。真っ先に大森先生が「そうしよう」と賛成したおかげで、クラスのみんなも納得してくれた。
そして翌朝、塩屋さんの机の上に教科書と『ごめんなさい』と書かれた3枚のメモが置かれていたというわけだ。
「琴音のそういうところ、好きだぜ」
「んなっ!?」
電気ケトルのように、一瞬で頭の中が
けどカズくんは何でもないかのようにブランコから飛び降りると、公園を後にしだした。
「ちょっと待ってよ!」
「ははは! 名探偵さんには、次のお客さんがお待ちかねみたいだから、一足先に帰ってるよ」
そう言って立ち去ったカズくんと入れ替わるようにしてあらわれたのは、神楽坂さんだった。彼女は難しい顔をして、もじもじしている。
「……許さないんだから。伊倉くんを使うなんて」
振り絞られた言葉に、はっとなった私は素直に頭を下げた。
「そうね。確かに私は汚い手を使った。だから謝るわ。ごめんなさい」
彼女はふいっと顔をそらした。
「……琴音」
「ん?」
「だぁかぁらぁ! 明智さんのこと、『琴音』って呼ばせてくれたら、許してあげるって言ってるの! いいわね! 決まりなんだから!」
そう大声をあげて、ぷりぷりしながら帰っていく神楽坂さん。
私はその背中に向かって、彼女に負けないくらい大きな声で叫んだのだった。
「分かったよー!! リンカちゃん!!」
(了)
名探偵、明智琴音はあきらめない! ~神楽坂さんと消えた教科書の謎~ 友理 潤 @jichiro16
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます