#30 塔

 その塔には、竜神と一人の娘が住んでいる。

 二人は未だ、恋とも愛とも分からぬ想いを抱えて、共に生きていた。


 琴の音に導かれ、夢の中に共に落ちていく。

 領土を護る任は、二人の大事なお役目だった。


 竜神の加護を受けた娘は、まるで竜神と一体になったかの如き手腕で炎と水を操ると云う。

 先代の竜神達にも引けを取らぬ実力である、と吟遊詩人は声高らかに詠った。


 いつの日か、二人が結ばれる日が来てほしい。

 そう願う領民は多かった。





 領主は既に、ミミィの知る領主の娘婿が務めるようになっていた。

 領土は、先代竜神が治めたとされる頃と同じくらいの活気を取り戻しつつあるらしいと聞き、ミミィは嬉しくなる。


 ミミィはあの日、カルヴァに夢へ共に入ってくれと言われたあの日から、殆ど歳を取っていない。

 カルヴァと同じ時の流れの中を生きるのは、何だか不思議な気持ちだった。

 ずっと隣にいられるのは自分だけなのだと、ミミィは時々その事実を思い出しては胸の鼓動が早くなるのを感じていた。


 この気持ちが、恋なのだろうか。

 そう思いはしても、確かな事は言えない。

 カルヴァが一歩踏み込んでくれたなら、想いを言葉に出来そうな気がするのに。



 今日も、塔にはオルゴールの旋律が響いていた。

 オルゴールが新しい主を探しに旅立つ日は、そう、遠くはない。



【了】

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Novelber 〜ミミィは黒き竜の夢を見る〜 南雲 皋 @nagumo-satsuki

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