#29 白昼夢

 カルヴァが少し遅い昼食を済ませた後、領主が訪ねてきた。

 ようやくカルヴァが目を覚ましたと聞き、駆け付けたのだと言った。


 それを聞き、カルヴァは自然と微笑んだ。

 領主は泣きそうな顔をして、カルヴァに微笑み返す。

 カルヴァには、その表情の意味は分からない。けれど、どうやら目の前の男に多大なる苦労をかけていたのだと悟った。


 未だ歌い続けるオルゴールの音が漏れ聞こえて、領主はここに居たのかと呟いた。

 領主の娘が市で出逢い、いつの間にか手元から居なくなっていたのだと言う。


 軽く話した後、領主は帰っていった。

 本当に、ただカルヴァの元気な姿を確認したかっただけのようだった。


 気付かぬ内に、色々な人に支えられていたのだと、カルヴァは思った。


 ぐらりと視界が揺れ、目の前に幼い自分が見えた。



(お前に負けたわけじゃないからな!)



 そう、聞こえた気がする。

 瞬きの後には何も、ない。ただ普段と変わらぬ廊下が続くだけ。白昼夢めいたそれは、カルヴァの背中を押しているようだった。



「カルヴァさま? もうそんなに歩けるようになったのですか」



 背後から聞こえてくる、嬉しそうなミミィの声。

 カルヴァはゆっくりと振り返り、ミミィに手を差し伸べた。



「ミミィ、話を、聞いてくれるか」


「はい、喜んで」

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