第6話 手紙6
「――というわけで、あなたがよく言っていた勝負とやらは私達の勝ちです。勝者は笑顔と共にある。『最後に笑った者が勝ち』とは、あなたが言ったことですからね。そういえば、『泣いたら負け』とも言っていましたよ。まさか、忘れていませんよね? ですから、今泣いているあなたは負けです。あなたはもう負けているのですから、もう勝負はこれで終わりです。『頼ったら負け』とか、考えないでくださいね!」
最後の一枚に書かれていたのは、予想していた白紙ではなかった。しかも、そこに書かれていたのは余韻ではなく、わけのわからない勝利宣言。
連れ添って五十年。確かに『勝ち負け』をそう言ってた気はする……。
いや、それはこの際どうでもいい。もっとも、仮にそれを言うなら、勝利者はやはり私のはず。
――だが、なぜ今さらなのだ? ほとんどお前は相手にしてこなかったじゃないか?
それに、『私達』? 『頼ったら負け』? そんなこと、わざわざ最後に書く必要があったのか?
――そもそも、考えてみれば不可思議なことはたくさんあった。
だが、改めてよく考えてみると、そこには確かに妻の笑っている顔がある。
――そうか……。これは、そういう事だったのか……。
この手紙は、妻が娘と孫娘を使って仕掛けてきた最後の勝負。自分が死んだあとの事を色々と考えて、色々な手を使って仕掛けてきた。
そして、ことさら最後に私が負けたことを自覚させる。
――まったく、私はそんなにお前に心配をかける夫だったのか?
手紙の束を封筒にしまい込み、外出の準備をするためにトイレの扉に手をかける。
――まあ、いいだろう。そういう事にしておいてやる。
だが、一応私も言っておく。この世の中の常として、『惚れた方が負け』なのだ。
――だから、最初から『最後に勝つのは必ず私』と決まっていた。
今から、あえてお前の墓に行く。思い通りになるのは少し癪だが、写真の妻にそれを言っても仕方がない。
まだ、何か企んでいたとしても、私の勝利は揺るがないのだと宣言するために。
〈了〉
妻と私の五十年戦争 あきのななぐさ @akinonanagusa
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