第5話 手紙5
「ありがとう。あなたを愛して、あなたに愛されている私は幸せ者です。とてもいい人生でした」
次の紙には、予想に反してただそれだけが書かれていた。そこに書かれていた日付は、封筒に書かれていた日付と同じものだった。おそらくこれが、この手紙の最後。もう一枚添えられているが、手紙の慣例に似せて、白紙のものを添えたに違いない。
それは、まだまだ書き足りないという気持ちを表す。普通は一枚の手紙にしか使わないが、きっとそうに違いない。
――いや……。もしかして、書けなかったということなのか?
そういえば、状態が悪化したのもあの日の夜だった……。
もし、あの時それがわかっていたなら、法事で九州に行くことはなかった。いまわの際にも立ち会えず、最後に交わした言葉は『行ってくる』と『行ってらっしゃい』。ろくに感謝の言葉を告げずにいた私は、とうとう最後までそれが言えずに妻と別れることになってしまって……。
――ああ、もういいか……。
この場所は、人に見せられない姿ができる場所だ。
そっと手紙をたたんで脇に置き、私は声を出して泣くことにした。
*
いったいどのくらいそうしていたのかわからない。だが、不意に頭をよぎったあの最後の一枚。それが私の涙を止めていた。
そして、私は手紙に手を伸ばす。
妻が残した、本当に最後の一枚を見るために――。
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