第3話 うしろのメリー
「犬神っておまじない、知ってる?」
「えっ?なにそれ?どういうの?」
「むかし、田舎でやってたという話なんだけど、お腹を空かせて動けない犬の前で、おいしそうなお寿司とか、見せつけるように食べるの」
「なにそれ?かわいそう」
「そして、犬の食べたい!という想いが頂点に至った瞬間に、すぽーん!って首を撥ねると、その食べたい!という執念が首に宿るから、美味しそうなものをお供えすると、なんでも言う事を聞いてくれるようになるんだって」
「なにそれコワイ!」
***
ずっと、ずーっと、美羽ちゃんと一緒だった。
だから、ずっと、ずーっと、美羽ちゃんと一緒にいたい。
だから、捨てられた、と思った時には信じられなかった。
忘れられた、と思った時には悲しかった。
だから、だからこそ、絶対に、美羽ちゃんの元に戻るんだ、とそう思った。
動けない私の前で、引越し屋のおじさんが歩いて行った。
動けない私の前を、大きなトラックが通り過ぎて行った。
動けない私の前に、犬があくびをしながら歩いて行った。
動けない私の前で、大きなカラスが地面をつついていた。
そのうちの誰か、おじさんかトラックか犬か、カラスでも。
誰かが、私を連れて行ってくれるんじゃないか、連れて行ってくれないかな、と思った。
動けない私と違って、彼らなら・・・ひょっとしたら、美羽ちゃんの元まで連れて行ってくれると思ったのに。
引越し屋のおじさんは、私を捨てて行ってしまった。
大きなトラックは、私のお腹を轢いて行った。
まぬけな顔をした犬は、私の腕を噛みちぎってから、やっと、食べられない物だって分かったみたい。
ずるがしこそうなカラスは、私のめだまをつつき出して飛んでいってしまった。
だから、私の手はちぎれてしまっているの。
お腹はつぶれて、中のワタがはみ出てしまっているの。
めだまは、飛び出てしまっているの。
そんな目にあっても、美羽ちゃんの元に戻りたい。
そんな事を思っていても、動く事も出来ない。
そんな時。
ふっ!と走ってきた車が、私の首をぽーん!と撥ねて行ってしまった。
***
今年、小学生になった健太くんには、気になる子がいました。
その子は、お人形さんのように綺麗で、にこり、と笑った顔が花のような女の子。
でも、健太くんは、話してみる事もできませんでした。
これくらいの男の子って、いじっぱりで素直でない所がありますからね。
そんなある日。
何かの拍子に、その子と喧嘩をしてしまったのです。
いえ、そんなたいした事じゃないんですよ。
ちょっとした、ささいな事。
でも、それでね、顔を合わすたびに、つーんとお互い、そっぽを向いてしまうような事に。
でも、それが気に入らなかったんでしょうね。
「美羽ちゃんをいじめる子は、あなた?」
後ろから声がします。
「なんだよ、文句あるのか?」
殴りかからんばかりに振り向いた健太くんは、そこに居たものを見て、思わず悲鳴をあげてしまいました。
無理もありません。
そこには、気になる子にそっくりの無残な姿をした
人形が居たのですから。
今年、小学生になった美羽ちゃんには、ある秘密がありました。
それは、大事にしているお人形のお姉さんがいる、という事。
でも、声は聞こえるけど、その姿は、美羽ちゃんにも、美羽ちゃんと親しくしている誰も見た事はありません。
ただ、美羽ちゃんをいじめる、いじわるな人にだけは・・・その姿を見せる事があるそうです。
うしろのメリー 余記 @yookee
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