第38話 朝食を食べながら
学校は今週は休みとなった。
また夏休みが短くなる。
正直勘弁してくれ状態だが仕方ない。
校舎のあちこちが修理中という状態だから。
急な休みなので今週は予定は何もない筈。
だが夕方頃、学内SNSでこんなお知らせが流れてきた。
『魔法実践・訓練・研究会会員にお知らせです。明日7月29日月曜日、研究会の総会を開きたいと思います。議題は夏合宿についてです。夏合宿に参加を希望される方、その他ご意見がある方はご参加いただけますよう、宜しくお願い致します』
流れからすると間違いないと思う。
今まで合宿なんて話は全く無かったし。
俺自身は騒がしいのや集団行動はあまり好きでは無い。
でもきっと行かないという選択肢は無いのだろう。
わざわざ
何を意図してかは知らないけれど。
それに遙香はこういうのは好きな筈だし。
集合場所は第2魔法実験室に朝10時。
研究棟の1階はほとんど被害が無かったと学内ネットではあった。
だから問題は無いのだろう。
あの部屋を使うという事は清水谷教官の許可も取得済みという事だろうし。
そんな事をぼんやり考えているとスマホが振動した。
遙香からのメッセージだ。
『お兄も研究会の集合行くよね。朝ごはん一緒に食べて行こう。9時に寮出口で待ってる』
うん、仕方ないな。
返信を打つ。
◇◇◇
翌日朝8時50分頃。
どうせ早めに来ているだろうと思って寮の出口へ。
ちょうど見覚えある姿が女子寮から来るところだった。
「あ、お兄、おはよ」
俺を見つけてとととととと駆けてくる。
その辺は小さい頃と変わらないな。
「廊下を走るのは禁止です」
「もう!」
「はいはい、喫茶室でいいか?」
休みの日は食堂も9時半まで朝食の営業をしている筈だ。
でも遙香の好みは喫茶室だろう。
「今、厚生棟は1階しかやっていないよ。他は立ち入り禁止で修理中」
そう言えばそうだった。
今回の魔獣騒ぎで一番被害を受けているから仕方ない。
厚生棟3階なんか見るも無惨な状態だし。
「なら何処で食べる?」
「外出て食べよ。川沿いの日陰に入れば涼しいよね」
「気温は結構暑いけれどな」
「魔法で冷やせば大丈夫だよ」
遙香は上にあの黒い作業服を羽織っている。
確かにこれを着て中を魔法で冷やせばそれなりに涼しい。
だが俺はその辺考えずにポロシャツ1枚で来てしまった。
でもまあ、前と同じように回りの石とかを冷やせば大丈夫か。
厚生棟1階の売店は思ったほど混んでいなかった。
休みなので朝寝を決め込んでいる奴も結構いるのだろう。
外へ遊びに出かけた奴も結構いるに違いない。
そんな事を思いながら俺は弁当コーナーを物色する。
3割引きになっていた賞味期限間近のチキンカツ弁当を発見。
これは買いだ。
あとはドリンクにこれも賞味期限今日のパック牛乳を1割引で。
休日でも早く起きるといい事があるようだ。
三文の得という奴だな。
まもなく9時だから早くないなんて無粋な考えは無し。
親だの何だのの監視が無い休日の寮なのだ。
生理的欲求に負けるまで寝ている奴は当然多い。
先に買って待っていると遙香がやってきた。
「それじゃ外行こう」
外へ出る。
夏の日差しがとんでもなくきつい。
「よく見るとこの辺、結構荒れているね」
小型魔獣がこの辺まで出てきたせいで道路脇が崩れていたりする。
当日のうちに自衛隊が車が通れるよう、とりあえずの補修をした程度だ。
その前には大型魔獣もここを通って襲ってきたしな。
ただ悪い事ばかりでは無い。
「その分川に入りやすくていい。元々はこの辺雑草だらけだろうし」
「それもそうだね」
自衛隊が簡易補修した砂利の上を通って川へ。
魔獣が荒らした部分を避けて上流へ行けば、そこそこ涼しげな雰囲気だ。
ただ気温は多分体温を超えている。
その辺は魔法でカバーだ。
そこそこいい感じの石を魔法で冷やして2人で腰掛ける。
「うわお兄、朝からカツ?」
「安いしお腹にたまるしさ。遙香だって甘いものだけだろ」
チーズケーキとフルーツサンド、いちご牛乳はあんまりだと思う。
「女の子はお砂糖とスパイスでできているの」
はいはい。
「それで合宿の予定、見た?」
「ああ」
今朝になって合宿について更に詳しい連絡が入ってきた。
仮の予定だが期間は7月31日水曜日から8月2日金曜日まで。
つまりなんと今週、明後日からだ。
「急だけれどなかなか面白そうだよね。此処へ来てから海に行った事ないし」
「でもよく予約を取れたよな。しかも費用も結構安いし」
費用は顧問の清水谷教官を含め20名参加の場合、5,000円程度とあった。
なおうちの研究会は全員あわせて25名。
この学校の課外活動では最大手だったりする。
「テストも終わって予定特にないしね。ほとんど参加するんじゃないかな」
「だな」
よくここまで計画を練ったものだ。
こんな急な日程なのに。
清水谷教官、相当苦労したのではないだろうか。
「でも何故突然合宿の話が出たのかな。いままでそんなの無かったよね。ひょっとして4年以上では話に出てた?」
「いや、俺も昨日の連絡ではじめて知った。理由もわからない」
実際俺も理由はわからないのだ。
ただ流れ的に須崎さんがなにか企んだだろうと思う位で。
「新潟の海と書いてあったけれど何をするんだろうね。海水浴場で往復はマイクロバス、食事は自炊と書いてあったけれど」
「それを今日決めるんじゃないか? 参加希望をとるのと一緒に」
「そう言えばそうだね」
うんうんと遙香が頷く。
平和だな、ふとそんな事を思った。
魔獣との戦いがあったからじゃない。
遙香とこうしていられる事がだ。
遙香が死ななかったらこういう日々が俺達の世界でも続いていたのだろうか。
世界がこうやって交わらなくても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます