第31話 魔王の存在
「つまり黒幕は水瓶座時代のファイブアイズ+3諸国って訳か」
緑先輩は頷く。
「今の情報を教わったおかげで読めるようになった」
「よくあるお話で魔王を倒すために勇者を召喚するなんてのがあるけれどさ。つまりはあれと同じか。勇者ではなく国を召喚したという形で」
「厳密には各国の一部地域のみ。入手しようとしたのは魔王を倒す事が出来る兵器とその考え方」
茜先輩と緑先輩の台詞で大分状況が掴めてきた。
「つまり水瓶座時代の多国間による陰謀というか作戦な訳ですか」
「然り。ただ水瓶座時代側だけでなく、21世紀側もある程度加担というか協力している。この学校を設立したのも自衛隊を密かに駐留させていたのもその為」
これでほぼ状況が見えた感じだ。
「でも魔王って、前にも確か出てきて倒されているでしょ。わざわざ他の世界から知識を得ようとしなくても倒せるんじゃないのかな」
確かにこっちの世界風に言えば19世紀以降、魔王という存在は世界上にそこそこ出現している。
最近だと30年前くらいに出現し倒された筈だ。
「確かに以前の魔王は平和維持軍の精鋭魔法部隊で倒せた。だがそれは魔法研究の格差があったからだ。今回の某国については先進国に劣らない魔法研究水準まで持ってきている。更に贄となった人民の数も多い。魔人もかなりの数生まれる事だろう。今のままでは倒すにも局地的な紛争では済まなくなるおそれがある」
向こうの世界の魔王とは万人単位の死と引き換えに魔法的進化した人間だ。
通常、人が死んだ場合、死の際に遊離した魔力は恨み等を持つ人間に取り憑く形で移動する。
これがせいぜい数十人程度の場合はせいぜい、対象の人間が『身体が重いな』程度で済んでしまう。
だがこれが数百人以上の恨み・魔力になると対象の人間に変化が訪れる。
爪が鋭く尖る、耳の上端が尖る等の軽微な変化から徐々に全身に至る変化まで。
これは人間の魔人化と呼ばれる。
更にこれが万人規模以上となると、身体が著しく強化され、魔力が通常人の数百倍以上に達するばかりか、魔物や魔獣を思いのままに操る能力を得てしまう。
これが魔王だ。
向こうの世界では魔王は伝説の存在ではない。
歴史上の戦争や大量虐殺事案等ではたいてい発生していると思って間違いない。
だが魔王は自らの維持の為に大量の魔力を必要とする。
国民全てを信徒とした一神教の神として君臨すればある程度は魔力を集められるかもしれない。
実際向こうの世界における古代の王等はそんな存在も多かったとされている。
だが現代では魔王はそういった一神教の神的存在になりきれない場合が多い。
何せラジオもあればテレビもある。
ネットが通じる携帯電話も今は貧困国まで普及済みだ。
自分を妄信的に信じる集団、つまり信徒を確保出来ず魔力が足りない場合。
魔力の確保の為、敵対する勢力へと戦争行為を仕掛ける事になる。
「第3期世界大戦になる前に魔王討伐戦か」
水瓶座時代では第一次世界大戦、第二次世界大戦では無く第1期世界大戦、第2期世界大戦と呼ぶ。
戦争の原因も経過も微妙にこっちの世界と違うのだが結果はほぼ同じだ。
しかしそんな背景があったとは……
俺がそんな事を思った時だ。
「さしあたって私達に関係するのは、次の魔獣の襲撃」
そう言えばそうだった。
つい大きくなりすぎた話に考えが行ってしまっていた。
「これから魔獣の襲来について未来を見る。少し待って欲しい」
先輩はそう言って前にタブレットを台で立てかけ、無線接続のマウスとキーボード、更に前にも見たランチョンマットのような布とタロットカードを取り出す。
「占いみたいだね」
「綠はカードを使って未来を予知するんだ。タブレットはメモ用だな。後で教官に報告義務もあるしさ」
「静かにしておいた方がいいですか」
「気にしなくていいって言っていたな」
綠先輩は カードを裏向きにして広げ、ぐるぐると回してカードを混ぜる。
時折1枚取り出して表を見て、キーボードで何かをカタカタ打ち込む。
それが終わるとまたカードを戻してかき混ぜて……
それを何度か繰り返した後、大机の隅にあるプリンターが動き始めた。
綠先輩がカードを表向きにして、順番通り並べ始める。
並べて箱にしまい、布をたたむと立ち上がり、箱と布を机に仕舞った。
その帰りにプリンタから出た紙を手に取り俺達の前に置く。
「今見た内容。同じものをネット経由で清水谷教官に提出した」
なるほど、こうやってレポートを打って提出している訳か。
そんな事を思いながら俺は置かれた紙を見る。
「1週間後、魔獣300頭以上の規模で襲撃か。厳しいなこれは。完全に此処を潰すつもりじゃないかこれは」
茜先輩の言うとおりだ。
数が異常に多い。
「その通り。今回は此処を潰して研究させなくする狙い」
「自衛隊だけでなく戦力になる研究者や教官、生徒も出される可能性が高いか。まずい、間違いなく私も引っ張り出される。少し魔法能力隠しておけばよかったかな」
「無理だよ。茜先輩は特に攻撃系の魔法が得意だって、もう有名だもん」
向こうの世界では茜先輩、ガンガンに攻撃魔法を使ったりしていたから。
この学校に転校して来た当初は用心しろとか言っていたけれど、結果的に意味はなかったようだ。
違う世界の自分の事なんて意識していなかっただろうから仕方ないけれど。
「これは明日から生徒も選抜部隊は魔法の特訓かな」
「選抜関係なく放課後1時間は訓練」
綠先輩がそう言うからには間違いないだろう。
面倒だけれども仕方ない。
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