第8話 気のせいだと思った
翌日はごく簡単な入校式の後、早速授業開始となった。
授業そのものは前いた
強いて言えば進み方が少し早いかな程度。
だが毎日朝の30分程度、研究協力の時間がある。
その辺ちょい拘束時間が長いかなと感じてしまう。
本当は通学時間が無い分自由時間が長い筈なのだけれども。
教壇に立っているのは副担任の梅園先生だ。
男子の一部が早くも名付けたあだ名は『女史』。
確かにそんな雰囲気がある。
教師と言うより何処かの研究室の研究者という雰囲気が。
「これから毎日、この時間は魔法の研究に対して協力する時間になります。本日はアンケートです。皆さんがおぼえている『向こうの世界』について、回答をお願いします。なお周りの人と相談はしないで下さい。それでは始めて下さい」
スタンドで机上に立てたタブレットパソコンの画面が更新された。
どれどれ。
俺は早速マウスとキーボードをセットし、設問を読みはじめる。
問題そのものは歴史や地理にあるような感じだ。
どの時代に何が起きたかとか、どんな国や地方があって地形や人口、産業はどうなっているかとか。
世界史的、そして地理的に双方の世界を比較する為のアンケートだろう。。
茜先輩は用心しろと言っていた。
でもこの手のアンケートについてはあまり気にしなくていいだろう。
だから思い出せる限りの事は記載する。
他の皆さんも真面目にやっているようだ。
マウスをクリックするカチッという音やキーボードを打つカタカタ音が聞こえる。
なお俺はキーボードの方が楽だが、フリック入力派も結構いる模様。
慣れればフリック入力の方が音が静かだし、入力速度もそう変わらないらしい。
なんて思いつつも回答していく。
入力していく途中でふと気づいた。
向こうの世界と地球や日本、よく似ているなと。
勿論向こうの世界は魔法が使える。
魔獣なんてこっちにはいない存在もいる。
でも歴史や地理はこちらの地球と酷似している。
地理的名称も歴史的人物の名前も。
無論細かく見れば違いもかなりあるのだろう。
だがおおまかな歴史とそれに出てくる名称、更に地理的な物とその名称。
どれも酷似しすぎている気がする。
細かい部分はどうなんだろう。
ちょっと脱線して俺自身について思い出してみる。
俺の場合は出生地の位置と出生病院がほぼ同じ場所で酷似した名称だ。
これは何故なのだろうか。
魔法のあるなしなんて違いがあるのに何故ここまで似ているのだろうか。
そもそもこの学校だってそうだ。
学校の創立理由や創立の時期は全く違う。
しかし思い出す限り、同じ場所に同じように建っているようだ。
所在する国一番の国立大学の特例付属校として。
これは何か誰かが意図した結果なのだろうか。
意図されているとしたら、意図したのは誰で何の理由でなのか。
それとも自然と同じになるような修正力が働く仕組みでもあるのだろうか。
向こうの俺の事を思いだそうとする。
大雑把に思い出す限りは小学校まではほぼ同じ。
でも中学から向こうの俺はこの学校に通い始めている。
ふと何かあったような気がした。
中学に入る前、小学校の高学年でだ。
向こうでも、そしてこっちの世界でも何かあったような気がする。
でもそれが何か思い出せない。
何だっただろうか。
そう思った時、画面が瞬いて警告メッセージが出た。
残りあと3分、というメッセージだ。
取り敢えず今はこのアンケートを埋めてしまおう。
俺は自分の事を思い出すのをやめ、作業に戻る。
◇◇◇
午前中の授業は4コマ。
それは以前と同じだ。
昼食は売店で買ったものを食べてもいいし食堂で食べてもいい。
本日は最初という事で食堂に向かう。
とりあえず話をするようになった有明や北村と一緒だ。
食堂は3年までの中学相当の生徒がそろそろ終わりという感じで去って行く状態。
向こうは午前中3コマ午後3コマの授業らしい。
これは単純に食堂や売店の混雑を避けるための措置のようだ。
食堂はカフェテリア方式。
御飯や味噌汁、各種おかず類をお盆に勝手にとり、最後に計算台にお盆をおけば自動計算してカードから金額が引かれる方式だ。
ただ……
「高校相当の3学年が一気に来ると流石に並ぶな」
有明の言う通りだ。
ずらっと列が伸びてしまっている。
「こりゃ結構待つかな」
「最大でも100人程度やからそこまで待たない。会計処理は10秒以下、移動時間を含めて1人あたり所要15秒としよう。会計端末3台で1分あたりの処理人数は12人。前が70人としても6分以下」
北村は何でも計算する癖がある。
本人が『自覚があるけれど治らない』と言っていた。
でも今の場合、確かに北村の言う通りだろう。
見た限りボトルネックになっているのは会計の場所のようだし。
「テーブルの方は空きがあるから大丈夫だな」
有明の台詞でテーブルの方を見る。
確かに3年生までらしい生徒は皆さん撤収に入っているな。
そう思った時だ。
見覚えがある誰かがいたような気がした。
とっさにもう一度そっちを見る。
「どうかしたか」
有明が俺に尋ねた。
「いや、何でもない」
気のせいだったようだ。
元々この学校での俺の知り合いは先輩2人だけの筈。
列が大分カウンターに近づいてきた。
さて、何を取ろうか。
俺はそっちの方へ思考を集中させる。
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