第4話 お昼休みに
「最近怪しい消え方をするよな、川崎。何か課外活動でも入ったのか」
小川にそんな事を聞かれる。
気づかれていないと思ったのだが、掃除当番の時などに見られていたようだ。
「ちょっとな」
「なんだなんだなんなのだ。何か美味しい話があるなら教えて候」
内海が何故か食いついてきた。
「内海は軟式テニスじゃなかったのか?」
確か入るとか言っていた筈だ。
「男女別だったからやめたので候。
「お前なあ」
「受験戦争の間の一幕の彩り、それを我は求めているのでござる!」
真面目な運動部員にぶん殴られろと言いたいが、まあ進学校なんてそんなものだ。
うちの高校、どの部活もまんべんなく弱いしな。
「それで川崎、美味しい話なら教えてくんなまし」
「大して美味しい話じゃない。こういう奴だ」
魔法については既にニュース等である程度明らかになっている。
記憶があったり魔法を少しでも使える人は全体のおおよそ0.3%程度。
つまり333人いたら1人くらいはいるという話だ。
だから以前茜先輩がやったのと同じように、机の上で右手の平を上に向け広げ、炎を出してみる。
「ほれ、簡単な魔法。いわるゆファイアという奴」
「おお、ここに魔法使いがおる!」
わざとらしく驚いた後、内海が続ける。
「で、それはまさか燐とかでやっていないでおじゃるよな」
「あれも一応
「確かに温度を感じるな」
小川が手を近づけて確認する。
「まさか川崎が魔法使いだったとは」
「魔法使いという程魔法を使える訳じゃない。炎や水が出せるくらいだ。あとは量が少なければ温度をあげさげしたり出来る程度だな。それ以上のものじゃない」
「ゲームや小説にあるような攻撃魔法はどうで候」
「試せる場所が無い」
「そりゃそうでおじゃるな」
納得いただけたようだ。
「とするとひょっとして、前に掲示板に出ていた魔法の研究会か」
「ああ」
「あれってまだ募集しているのでおじゃるか? 部員は?
これ内海。
「あいにく魔法を使える人のみ募集だそうだ。俺を入れて3人。割合的にはそんなものだろう」
この学校は1学年8クラスで1クラス40人。
つまり全校生徒はおおよそ960人。
実際には退学したり試験で人数多めに入ってきたりで多少の誤差はあるけれど。
だから魔法使いの人数が3人というのは妥当な線だろう。
「それで川崎以外はどうなのでおじゃるか? 吐け! 吐くのでおじゃる!」
「残り2人は2年の先輩だ」
あえて性別は言わなかった結果、内海は返答に満足しなかったようだ。
「それで男女別はどうなのでおじゃるか。2人とも女子なのでおじゃるか!」
「一応そうだけけれどな、何も無いぞ」
「うう……川崎が羨ましいでおじゃる」
なんだかなあ。
だいたいこのクラスに女子がいない訳では無い。
この
クラスの半分は女子。
当然内海の心の叫びも聞こえている訳だ。
内海の幼馴染にも。
だからついでに言ってやる。
「内海は森川さんがいるだろ」
「あんな胸まな板の腐れ鬼女、勘弁して欲しいでおじゃる」
バシン!
内海の頭がノートを丸めたものではたかれた。
勿論その相手は森川さんだ。
「誰が胸まな板で腐れ鬼女だって」
「腐っているのは間違いないでおじゃる」
「どういう意味よ、それ」
「刀の名前で菊一文字というものがあるでおじゃる。でも菊一文字と聞いたこの
おい待て内海、どういう意味だそれは。
「あとクラスの奴がふざけてカンチョーして決まって、お尻を押さえて痛がっているのを見て、『いい資料になった』とも言っていたでおじゃる。我輩はそれで悟ったでおじゃる。これは腐りし女子だと」
俺にも意味がやっとわかってきた。
腐女子という事か。
「私は単に創作の上で遊んでいるの。内海みたいに元々の頭がおかしいのとは違うの! いい、わかった!」
「入学する前には言っていたのでおじゃる。『今度漫研に入ったらオタサーの姫になれるかしら』と。でも実態は腐女子天国だったと嘆いていたで候」
「こら内海、まだ言うか」
「いくらでもネタはありんすよ。そもそも腐女子沼に落ちる前はエロゲコレクタ……」
給に台詞が止まったなと思ったら、森川が背後から両腕で内海の首を決めていた。
腕が見事に喉の場所に入っている。
内海がタンタンと机を叩いてギブアップと言っているが止める様子は無い。
「放っておいていいわよ。久しぶりに見たけれど、前からよくある事だから」
これは西場さんだ。
「幼馴染ってのも羨ましいよな」
幼馴染か。
また俺は一瞬何かを感じた気がした。
気のせいだろうとは思うが最近何かこういう事が多い。
何故だろう。
一方、小川の台詞に西場さんは肩をすくめる。
「3人一緒で2人が強烈だと苦労するわよ。その2人が仲がいいとまたね」
ふむふむ。
「でもあれはあれでいいんじゃないか?」
「結果的に私があぶれる訳よ」
なるほど。
「ところで川崎ってどれくらいの魔法を使えるの?」
その辺も聞こえていたらしい。
「炎や水が出せるくらい。あとは量が少なければ温度をあげさげしたり出来る程度」
さっきとおなじ説明をする。
「いいなあ、何か楽しそうで」
「その程度出来ても何も変わらないぞ」
「それ以上に何かができる可能性があるじゃない」
「でも試せないし、普通の生活じゃ」
「それもそうか」
西場さんが頷く。
一方で俺は内海の方が気になる。
「ところであれ、本当に放っておいていいのか?」
「大丈夫よ。あれでお互いよくわかっているから」
本当だろうか。
内海が本気で苦しそうなのだけれども。
顔色が何か赤くなったのを過ぎて青ざめて来たぞ。
そう思ったところでチャイムが鳴った。
昼休み終わりだ。
「命拾いしたわね」
内海は何度も深呼吸している。
かなり苦しかったようだ。
「これでもう変な事は言わないでね。返事は?」
まだ声が出ないと内海はジェスチャーをして、その後ノートの最終ページに何か鉛筆で書いて俺達に見せる。
なになに。
『背中に胸が当たっていたのに柔らかさを感じなかった。やはりまな板のようだ』
……
「もう一度死ね!」
また首を絞められたところで先生が入って来た。
状況終了のようだ。
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