第1章 新天地は山の中
第6話 バスの中で
東大構内のホールに集合した後、指示されて大型の観光バスに乗り込む。
この辺までは最小限の説明だけだ。
なお茜先輩達とは集合場所が同じ東大構内でも違う場所だった。
この辺もマスコミ対策なのだろうか。
なお観光バスは普通の観光バスだ。
俺と同じバスに乗り込んだのは、運転手を除くと俺と同じくらいの年齢の男子女子あわせて30人位と中年の男1人、30前くらいの女性1人だ。
男女割合は大体1対4位で女子がやたら多い。
魔法が使えるのは女性の方が多いと聞いたがそのせいだろうか。
俺の席は前から4番目の窓側で隣はやや細長い印象のな男子。
本来なら雑談でも始めるところだが、何せ今までの雰囲気が雰囲気だ。
雑談していいものかどうかすら怪しい。
他の皆さんも同じ事を考えているせいか、車内は静まりかえった状態のままだ。
バスが発車した直後、中年の男の方がマイクを手に取った。
教師と言うより軍人という雰囲気のごつい男だ。
「いままで秘密が多くて申し訳なかった。私はこの4年生のクラスの担任で御門と言う。こちらは副担任の梅園だ。この2人で4年生のクラスを担当する。宜しく。
さて、この車はこれから秩父の山間にある学校に向かう。東大の演習林の敷地に建てられた学校で寮も完備している。寮は昔ながらの一部屋に数人入るタイプでは無く、狭いながら専用のバストイレがついたマンションタイプの部屋だ」
声も見た目通り太くて低い。
それにしても秩父の山の中で演習林の敷地か。
演習林という事は山の中なのだろうな、きっと。
いくら東大の敷地とは言え、もう少しましな場所にならなかったのだろうか。
俺はせめて今まで住んでいた位には開けた場所だと思っていたのに。
「さて、何故そんなとんでもない山の中にあるか。理由はいくつかある。
例えば君達は魔法を使用可能な魔力を持っている。だがそういった魔力を持つ存在が集団で居住する場合の影響というものがまだわかっていない。その辺の安全性を考えてと言うのが理由のひとつだ。
またそれ以外の安全確保と秘密保持なんてものもある。現在このような事態が起きているのは世界でもごくわずかな国にしか過ぎない。故に大変な注目を集めている。どういう意味の注目かはあえて言わない。だがその辺の安全を守るためにも、このように隔離された場所の方が楽だ」
この辺の説明はかなり洒落にならない意味を含んでいるなと思う。
少なくとも普通の高校生が気にするような世界ではない。
逆にそれだからこそ説明できる事もある。
此処へ来るまでの情報の少なさと秘密保持体勢等。
「脅すような事を言ってしまったが、生活場所が隔離されているだけでそれ以上の事は無いから安心して欲しい。場所も開校後しばらくしたら公表されるし外出も制限される事は無い。メールや手紙も制限は無いし、店こそ無いが通信販売で良ければ基本的に届く。コンビニよりは少しましな程度だが売店も中にある」
とりあえず監獄状態よりはましだという事か。
その辺で少し安心した。
「なお、学校のカリキュラムはほぼ一般の中等教育学校と同じだが、ある程度魔法の研究に関する項目も存在する。またこの学校は研究機関を兼ねているので、魔法研究に協力して貰う時間もある。その際も人権を無視した人体実験的な事は無いから安心してくれ。最初は魔法を使用する際に脳波を計るだの、魔法の出力を測定するだのいった程度の事が主になると思う」
つまりヤバい研究所のモルモット扱いとかは無いという事だな。
モルモットには違いないけれど。
「なお学校は魔法に関した研究活動の中心地となる予定だ。研究者も様々な分野の最精鋭を集めている。何故このような事態が起きたかという部分から現代社会への影響、更には科学的工学的な応用に至るまで、様々な研究からなる一大プロジェクトとして推進する事が決定済みだ。君達はこれらについて研究する側とされる側双方に立って活躍する事を期待されている。奨学金を始め様々な優遇措置はそういった期待の表れだと思って欲しい」
つまりモルモットとして研究される傍ら研究する側にも立てという事か。
まあ高校1年では研究する側と言っても大した事は出来ないだろうけれど。
「なお本日の予定は学校到着後、簡単なガイダンスをした後解散となる。夕食時間以外は自由に過ごしていい事になっている。後はこれから配る資料を読んで確認してくれ。それでは梅園先生」
女の方に変わった。
こっちは細くてそのくせ化粧っ気が薄くて白衣が似合いそう。
つまりは研究者っぽい感じだ。
「副担任の梅園です。このバスは追跡車が無いようなので、1回ほどトイレ休憩をした後学校に向かいます。説明はこれで終わりますので、以降は雑談していただいて結構ですよ。このバス内は同じクラスとなりますから。後に授業で自己紹介等もやっていただく予定ですけれどね。
それでは資料を配ります」
追跡車か。
そんなものまで警戒しているんだな。
それにしてもこの2人、案外本当に軍人、いや自衛隊員と研究者だったりしてな。
最初の説明の物騒さからして可能性としてあり得ない事も無さそうだ。
そんな事を思いつつ俺は通路をやってきた梅園先生から隣の男子経由で資料を受け取る。
「ありがとう」
「いえいえ。ところでどこから来た? 俺は群馬の後橋高校から来た有明透」
「俺は川崎孝昭、
俺をはじめ、車内各席で自己紹介からはじまる雑談が開始された。
この状況上、配られた資料を見ながらの雑談になる。
まずは交通アクセスの案内を見た愚痴からだ。
「それにしても田舎だよな。最寄りの駅から池袋まで2時間半だと」
「新幹線なら東京から新大阪までいく時間だな」
「そして最寄りの三峰口駅まで10キロでバス20分、電車は1時間に1本だと」
一方で予想よりいい点も無論ある。
「寮は完全個室か。その辺はありがたい」
「この洗濯制度便利だよな。朝、部屋の外に袋に入れて出しておけば夕方には洗っておいてある訳か」
「とりあえずネットは使えるようだから問題無いかな」
「あとは回線速度が実効どれくらいか」
そんな話をしながらバスは進む。
途中1回、高坂というサービスエリアで休憩した以外はノンストップだ。
やがて完全に山の中というかんじの場所に入り、所々に待避所がある大型バスなら目一杯という道を通り、そして。
バスは止まった。
3階建ての真新しい建物がでんとそびえている。
「こんな山の中にまるで秘密基地だよな」
「というか昔のアニメの研究所なんてのもこんな感じじゃないの」
そんな事を言いながらバスを降りる。
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